第2章 議題開始 ― 「痛みか、誇りか」 3.衝突:定義の罠
討論は次第に、収拾がつかなくなっていた。
真夜は熱に浮かされたように理想を語り、
赤城は冷静に論理の刃を振るい、
アオイは皮肉を込めたツッコミを連射し、
白石は詩的言葉で空間に上書きする。
円卓の上には、議論の煙のように、熱気と混乱だけが渦巻いていた。
真夜は拳を握り、額に汗をにじませながら叫ぶ。
「定義できないからって、逃げるのか!」
赤城は腕を組んだまま、低く冷たい声で返す。
「お前の言う理想は、ただの言葉遊びだ。」
アオイはタブレットを握りしめ、軽く舌打ちする。
「その言葉遊びが文化になるって話じゃん!」
白石が杖で床を叩き、声を高める。
「静まれ、静まれい!」
四者四様の声がぶつかり合い、言葉は刃となって宙を飛ぶ。
机を叩く音、椅子が擦れる音、紙がめくれる音——
会議室はまるで嵐の中心のようだった。
そして——
全員が同時に立ち上がり、机を叩いた。
ガンッ!
その衝撃が、蛍光灯をひときわ強く光らせた。
パチッ、と一瞬、照明が明滅する。
部屋の空気がわずかに揺れ、静寂と混乱の間で、
誰もが息を飲む。
「……来るな。」
「……来たな。」
——その気配は、まだ姿を見せず。
だが、五人全員の心に、
“定義を拒む者”の存在を強く意識させていた。
次の瞬間、スピーカーから低く響く声。
「——沈黙せよ。」
全員が思わず黙る。
机を叩いた手の震えが、
議論の熱気をも飲み込むように、
部屋に落ちていった。
衝突の嵐の後、円卓にはただ、
五人の呼吸だけが残された。
——中二病の定義は、また一歩、遠のいたのだった。




