第2章 議題開始 ― 「痛みか、誇りか」 2.討論パート:それぞれの定義
真夜が、握りしめた左手を力強く机に置いた。
視線はどこか遠く——いや、彼の心の中の“もう一つの世界”を見据えているようだった。
「これは逃避じゃない。抗いなんだ。
世界に踏み潰されそうになった魂の、最後の抵抗。」
その言葉に、アオイは鼻で笑った。
「厨二ポエムの代表例だね。」
真夜は真っ赤になり、机を一撃。
ガン、と響く音が部屋を揺らす。
「うるさい! 理解しろ!」
「……いや、理解は無理です。」
一方、赤城九郎は腕を組み、冷静に微笑んだ。
大人の余裕と、中二病的重厚感が絶妙に混ざっている。
「人はみんな、仮面をかぶる。
私はその仮面を、デザインしただけさ。」
白石麗が杖で軽く床を叩き、眉をひそめる。
「商業的だな。」
「それでいい。」赤城はさらりと笑う。
アオイはノートに走り書きをしながら、低い声でつぶやいた。
「今のセリフ、漫画に使えそう。」
アオイは冷静に身を乗り出す。
感情の理屈で世界を解析するかのように、声に艶がない。
「つまり、中二病は感情のオーバーフロー。
創作の源泉でもあるけど、放っておくと人を壊す。」
真夜が鋭く反論する。
「それを病気みたいに言うな!」
アオイは小さく肩をすくめ、淡々と返す。
「“病”ってついてるし。」
真夜は一瞬、言葉に詰まった。
赤城は微笑みを浮かべ、舌打ちする。
白石麗が、杖を床に立て、静かに口を開いた。
声は低く、だが一音一音が重く響いた。
「中二病とは、“我”が“世界”に初めて気づく瞬間だ。
それを恥と呼ぶのは、あまりに残酷だ。」
その言葉に、一同が少し黙った。
空気に、言葉の重みが落ちる。
真夜は息をのんで、小さく呟く。
「……かっこいい。」
赤城は腕を組み直し、顎に手を当てる。
「だが定義にはならないな。」
アオイはタブレットを指でトントンと叩きながら、苦笑する。
「……結局、誰も答え出せてないってことだよね。」
討論は、まだ序章に過ぎなかった。
五人の意見は互いにぶつかり合い、
机を叩き、声を張り、笑い、苛立ち、ため息を重ねながらも——
誰も、答えにたどり着けない。
中二病は、その名の通り、“定義を拒む病”であることを、
五人は身をもって体感していた。




