終幕 ― 「静寂の余白」
朝焼けの光が街の端から端まで染め上げていく。
割れたガラスにも、崩れた屋上にも、
すべての傷跡に黄金の光が流れ込み、世界はまるで何事もなかったかのように息を吹き返していた。
——そして、光が頂点に達した瞬間。
世界は、静かに幕を下ろすように暗転した。
音が消える。
風も止まり、鳥の声すら遠ざかっていく。
やがて、薄闇の中に浮かび上がる一つの光景。
そこは、かつて彼らが集った“円卓会議室”。
整然とした机と椅子。壁にかかる時計は止まったまま。
誰もいないのに、どこか“つい先ほどまで誰かがいた”ような温度だけが残っている。
テーブルの中央には、一枚の白紙カード。
黒封筒の破片の上に、静かに置かれていた。
風もないのに、そのカードがわずかに震え、
表面に金色の粒子が走る。
光が線を描き、言葉になる。
『世界は、定義され続ける。』
その一文は、まるで“誰かの意思”がまだそこに在るように、
淡く脈動していた。
静寂。
けれど、その静けさは死ではない。
むしろ、“次の呼吸”のための一拍の間のようだった。
窓の外を見ると、奇妙なことが起きている。
朝焼けの光が再び淡く滲み、
空の色が少しずつ――夕暮れに戻っていく。
時間が巻き戻っている。
現実と幻想の境界が、また溶け始めている。
だが、恐怖はない。
それは滅びではなく、“続き”の気配。
円卓の上のカードが、最後にもう一度だけ光を放った。
その輝きはまるで、誰かが微笑んだような優しさを宿していた。
——そして、再び、世界は静寂へと沈む。
「……世界は、終わらない。定義され続ける限り。」
誰の声とも知れぬその呟きが、
無人の会議室に、微かな残響を残して消えていった。




