第1章 召集 ― 「選ばれし者たち」 3.自己紹介大会(カオスブロック)
スピーカーのノイズが途切れ、
しばしの沈黙が会議室を包んだ。
天井の蛍光灯は、今にも切れそうな音を立てている。
それでも、五人の視線だけは妙にギラギラしていた。
まるで、誰が一番“こじらせているか”を競い合うように。
最初に口を開いたのは、やはり彼——黒羽真夜。
「……我は、堕天の継承者。
封印された左手の主にして、虚無より来たる影を束ねし者……!」
その声は、無駄に通っていた。
懐中電灯の光が彼の顔を照らし、
頬に落ちる影が、まるで“設定”を補強しているようだ。
「この左手に宿る力が、今宵再び……!」
「やめろ! 包帯外すな!」とアオイが慌てて制止する。
彼女の目に映るのは、ただの絆創膏だ。
だが、真夜にとってはそれが“封印”なのだ。
すかさず、赤城九郎が腕を組んだまま口を開く。
低く落ち着いた声で、妙に自信に満ちている。
「いいね。君はまだ“痛みを恐れていない”。
私は“策謀家”。社会を欺き、幻想を残すために働いている。」
「は……働いてるんですか?」とアオイ。
「ああ、会社という名の“組織”でな。
あれはもはや異能者の巣窟だ。上司という魔王、会議という拷問。
私はその闇の中で情報を操り、世界の均衡を保っている。」
「つまり、ただのサラリーマンってことですね。」
「違う。サラリーマン“であることを選んだ異端者”だ。」
「(真顔で)……めっちゃやばい。」
アオイは心の中でメモを取る。
(※社会適応型中二病・発言すべてがメタファー)
その横で、白石麗が杖を軽く鳴らす。
声は低く、だがどこか詩的だった。
「若者よ。中二病とは“自意識が世界に出会う瞬間”だ。
恐れることはない。それは魂がまだ燃えている証だ。」
真夜は感動のあまり、椅子を鳴らして立ち上がる。
「先生……理解者がここに!」
白石はうなずく。
「わしもかつて、教壇で言葉の魔法を教えておった。
“痛みを恥じるな、痛みこそ詩である”と。」
アオイは心の中で悲鳴を上げた。
(※マジでポエム読まれた。逃げ場なし)
赤城が指を鳴らす。
「いや、理解するな。燃やせ。こじらせろ。中二病は文化だ!」
「文化って言いました?」とアオイがツッコむ。
「そうだ。オタク文化、サブカル文化、そして中二文化。
この三つが日本を支えている!」
「(頭を抱えながら)そんな重責、勝手に背負わないで……」
「黙れ、現実の徒よ!」と真夜が叫ぶ。
「我らは夢を見る種族だ!」
「うるさい夢見族だなぁ……!」
会議室の中、もはや収拾がつかない。
中二語と現実語が入り乱れ、
“痛々しい詩の応酬”が発生していた。
白石が「わしの黒歴史ノートを見せよう」と言い出し、
真夜が「左手が共鳴してる!」と叫び、
赤城が「私がまとめよう!」とプレゼンモードに入り、
アオイが「もう誰か止めて!」と嘆く。
それはまるで、社会からドロップアウトした者たちによる、
奇跡的にバランスを欠いたコントだった。
——そして、その瞬間。
照明が一瞬、パチンと音を立てて消えた。
真夜の懐中電灯の光だけが、彼らを照らす。
部屋の隅に、誰もいなかったはずの“もう一人”の影が浮かび上がる。
黒い仮面。スーツのようでスーツでない衣装。
まるでこの世界の“管理者”のような気配。
ノイズ混じりの声が、再び響いた。
「……やはり、こじらせの炎は絶やされていなかったか。」
全員が一斉に振り向く。
真夜の瞳が輝く。
アオイが思わずスマホを握りしめる。
「誰……?」
「名乗るがいい。お前は……!」
「まさか、“彼”が……!」
声が静かに名を告げる。
「我が名は、ミスターX。
“中二病”という概念の、観測者だ。」
その言葉に、誰もが一瞬だけ息をのんだ。
そして、赤城が満面の笑みで呟いた。
「……やっと、議題の本番だ。」




