第4章 記憶の奔流 ― 「中二時代の洪水」
アオイの言葉で止まりかけた幻想は、
——だが、静止しきれなかった。
会議室の壁が再び悲鳴を上げ、
ひび割れの奥から、過去が溢れ出す。
インクのように黒く、
光のように懐かしく、
それは“記憶”という名の洪水だった。
床の下から、教室の床が滲み出る。
窓の外には、見覚えのある校舎。
机の上には落書きされた魔法陣、
天井からは蛍光灯の音——。
気づけば、会議室は過去と現在の狭間に沈んでいた。
真夜は息を呑む。
目の前に、かつての自分がいた。
誰にも見せられなかったノートを抱えて笑う、
けれど、その笑顔の裏には怯えがあった。
クラスメイトの笑い声。
ページを破かれる音。
あの日、捨てたはずの夢。
少年の声が、彼に向かって囁く。
> 「理想なんて、笑われるだけだよ。」
真夜は拳を握る。
「——それでも、描きたかったんだ。」
一方、赤城の前には“黒翼団”が現れていた。
黒コートに身を包んだ仲間たち。
夜の校舎を支配しようと語り合った日々。
「我ら、漆黒の翼に誓う!」
声が響く。だが、その顔はどれも空白だった。
影のような仲間たちが、微笑みながら消えていく。
赤城は呟いた。
「……お前ら、俺の妄想の中で生きてたのか。」
すると、最後の影が振り返り、囁く。
> 「だったら、今の俺は誰だ?」
黒炎が再び赤城の背を焦がした。
白石の足元には、懐かしい教室が広がっていた。
チョークの粉が舞い、机の上には没収されたノート。
そのノートに描かれていたのは、翼をもつ少年少女たち。
そして、かつての教え子が立っていた。
——泣きそうな笑顔で、彼を見上げながら。
> 「先生、もう夢なんて、いらない。」
白石は杖を握りしめる。
教室の壁に、魔法陣のような落書きが光った。
「すまぬ……。守りたかったのは、ただ“空想する権利”だったのに。」
記憶が押し寄せ、会議室は完全に崩壊していく。
机も椅子も、現実の構造も意味を失い、
過去の情景と混ざり合って“幻想の街”となる。
夜の屋上、文化祭のステージ、放課後の空、
ノートの中の異世界——
すべての時代が一度に重なっていた。
真夜たちは気づく。
これはただの回想ではない。
“彼らが否定した過去”そのものが、形を取り、
罰として彼らを試しているのだ。
「記憶=幻想=罰」
忘れたつもりでも、想像は消えない。
それは、彼らの魂の奥に刻まれた“呪文”なのだ。
幻想の奔流の中、アオイが再びペンを握る。
彼女の声が、遠くから響く。
「……みんな、自分の“物語”を取り戻して。」
その言葉を合図に、
真夜・赤城・白石の胸に、それぞれの“原点の光”が灯る。
——彼らの黒歴史が、いま、救済を求めて目覚め始めていた。




