第4章 静なる異端 ― 「アオイの観測」
崩壊する空間の中で、
ただひとり、星野アオイだけが“立っていた”。
光と闇がぶつかり、
塔がうねり、翼が裂け、魔法陣が輝く。
現実が音を立てて歪み続けるその中心で、
彼女は——まるで観測者のように、冷ややかに世界を見つめていた。
目の前の光景が、奇妙に“薄く”なる。
塔の輪郭がペンの線に変わり、
闇の翼はトーンの網点模様に、
魔法陣はインクの滲みになってゆく。
彼女の視界は、まるで漫画の下描きのようだった。
現実が原稿化していく。
吹き出しが浮かび、コマが割れ、
空間がモノクロームの紙片に変わる。
その中で、仲間たちの叫びだけが残響のように漂う。
「ねぇ……これ、全部、私たちの“描き残したページ”なんだよ。」
アオイの声は静かだった。
だけど、その響きはどんな魔法陣よりも深く、
どんな光よりも鋭く世界を貫いた。
真夜の光塔も、赤城の黒翼も、白石の魔法陣も——
一瞬にして“線画”として静止する。
まるで、ペン先が止まった瞬間のコマのように。
「私たちはさ、
“痛み”や“恥ずかしさ”の中で、
いろんな世界を描いてきたんだよ。」
アオイはインクのしみた指先を見つめ、
少しだけ笑った。
「これは、全部、あのとき描けなかった続きを……
今、描いてるだけなんだ。」
彼女の瞳の奥に、ひとつの理解が灯る。
——中二病は、逃避でも、恥でもない。
それは、“創造”と“現実”の間で揺れる心そのもの。
そして、静かに呟いた。
「でも、現実に帰る勇気も——中二病じゃない?」
その瞬間、世界のノイズがふっと止まった。
吹き出しが破れ、線が溶け、
トーンが散り、コマが消える。
幻想の塔も、翼も、魔法陣も、
——すべてが静かに“紙の上”へと還っていく。
まるで、物語が一度、呼吸を止めたように。
崩壊の只中に立つアオイの周囲だけが、
奇跡的に“静寂”だった。
そこにあったのは、混乱ではなく——
観測。
彼女だけが、この幻想の意味を理解していた。
そして、まだ終わっていないことも。




