第4章 言葉の戦場 ― 「理想の衝突」
轟音とともに、会議室が“解体”されていった。
まるで現実そのものが、彼らの議論の熱に耐え切れなくなったかのように。
壁紙が剥がれ、床が波打ち、空間がねじれている。
それでも、彼らは言葉を止めなかった。
言葉こそが、自分たちの存在証明だったから。
「世界は——理想で再構築できる!」
真夜の声が響いた瞬間、彼の背後で光の再生塔が立ち上がる。
白金色の光が天井を貫き、砕けた蛍光灯や書類の破片が宙に舞い上がった。
それらは次々と組み合わさり、別の形を成していく。
机は新世界の礎に、壁は光の地平線に、
床は——雲のように柔らかく形を変える。
「現実なんて、書き換えられる!
俺が見た“再生”を、今ここで証明してみせる!」
その声には、少年の頃に捨てた理想が宿っていた。
「理想だけじゃ世界は動かない。」
赤城の声が低く響く。
彼の体を包むように、黒い羽が音もなく広がっていく。
その翼は、ただの幻想ではなかった。
黒い羽の一枚一枚が、過去の痛みや嘲笑、絶望の記憶を宿している。
「闇を否定するな!」
赤城は黒翼を広げ、光の塔に向かって叫ぶ。
「痛みも、弱さも、俺たちの翼だ!
それを抱えたまま飛ぶことこそが、中二病の本質だろう!?」
翼が広がるたびに、周囲の空間が裂ける。
光と闇の断層が重なり、空気がねじれ、
会議室の一部が“夜空”に変わった。
「静まれ、静まれい!」
白石の杖が床を叩く。
円卓の下から、無数の魔法陣が湧き上がった。
そのひとつひとつに、かつて彼が教えた子どもたちの落書きが浮かんでいる。
「子らの夢を守るためなら、幻想も現実も同じ土俵じゃ!」
魔法陣が輝きを増し、子どもたちの影が立ち上がる。
笑い声、泣き声、走り回る足音。
——それは、かつて失われた教室の記憶だった。
「見よ、これが“想像する力”だ。
大人が忘れた“痛みの純粋さ”を、わしはまだ信じておる!」
三つの“理想”が交錯した瞬間、
世界が――裂けた。
床が天に向かって反転し、
壁は夜空へと透け、
天井の蛍光灯は星々に変わる。
現実と幻想の境界が完全に崩壊する。
そして、皮肉なことに——
痛い発言ほど、世界が大きく変形していく。
光の再生塔が高く伸びれば伸びるほど、
黒翼の影は深く、魔法陣の輝きは強くなる。
彼らの“言葉”が、想像を呼び、
想像が、現実を上書きしていく。
それはもはや論戦ではなかった。
——*概念の戦争*だった。
吹き荒れる光と闇の中で、
アオイだけが立ち尽くしていた。
手の中のペンを握りしめ、呟く。
「ねぇ……これが、本当に“中二病の理想”なの?」
誰も答えない。
彼女の声だけが、揺らぐ世界の残響に溶けていった——。




