第4章 崩壊 ― 「現実侵食」1.幻想の暴走 ― 「議論は武器になる」
円卓の上に散らばる書類が、静かに揺れた。
エアコンの音も、時計の針の音も、いつのまにか消えている。
——ただ、言葉の熱だけが残っていた。
「では、続きを始めようか。」
赤城九郎が椅子の背に体を預け、薄く笑った。
その声にはどこか火花のような刺激があった。
真夜が拳を握りしめ、息を吐く。
「俺はまだ、諦めていない。
中二病は——現実に抗う意志だ。
壊れた世界を、もう一度“理想”で再構築する。それが俺の定義だ!」
その瞬間、会議室の床が——音もなく軋んだ。
真夜の背後に、光の塔が伸びる。
蛍光灯の光がねじれ、まるで現実の法則がその言葉に屈していくようだった。
「おいおい、やるじゃないか。」
赤城が口角を上げる。
「だが、“再生”なんて言葉は、聞き飽きた。俺が欲しいのは破壊だ。」
彼の指先に黒い紋章が浮かぶ。
中学の頃、ノートの隅に描き続けた“黒翼団”のエンブレム。
それが現実の空間に焼き付くように輝いた。
パチン、と空気が裂ける。
赤城の手には漆黒の炎が集まり、一本の剣を形作る。
炎の刃が、天井の光を切り裂いた。
「黒翼団、再臨だ。」
「そんな妄想、まだ信じてるのか!」
真夜が叫ぶ。
「信じるさ。言葉にした瞬間、世界は変わる——そうだろう?」
赤城の声に呼応するように、床にひびが走る。
白石麗が杖を突いて立ち上がり、低く呟いた。
「おぬしら……言葉の重みを、忘れておるな。」
彼が一歩進むたびに、床に淡い光の線が走った。
円卓の周囲を囲むように、複雑な文様——魔法陣が浮かび上がる。
やがて机がふわりと宙に浮かび、資料が風もなく舞い始めた。
四人の言葉が、光と影の形をとり始める。
討論はもはや、論理ではなく現象だった。
誰かが発言するたび、現実がひとつ書き換わる。
「ねぇ、気づいてる?」
アオイがペンを回しながら、呟くように言った。
「言葉って、現実を変えるんだよ。」
彼女の声が落ちた瞬間、空気が震えた。
真夜の塔がさらに高く、赤城の炎がさらに黒く、白石の魔法陣がさらに眩しく。
——全ての言葉が、具象化して衝突する。
光と闇がぶつかり合い、机の上に“議論の風圧”が生まれる。
言葉が、武器になり、盾になり、世界を削っていく。
「言葉の戦場ってやつか……」
赤城が笑う。
「悪くない。これが本当の——討論だ。」
次の瞬間、床が砕け、眩い閃光が円卓を包み込んだ。
そこはもはや会議室ではなく、四人それぞれの“幻想”がせめぎ合う戦場だった。
現実と妄想の境界が、完全に崩れ落ちていく——。




