第3章 告白 ― 「我らの黒歴史」6.幻想の侵食 ― 「想像の残滓」
白石の言葉が終わると同時に、
会議室の中の空気が、ふっと変わった。
誰も動かない。
誰も、息をしていないようだった。
——次の瞬間。
照明がチカ、チカ、と明滅を始めた。
薄闇に沈む壁の模様が、まるで呼吸するようにうねり出す。
ペンの跡。ノートの線。インクの染み。
それらがすべて混ざり合い、壁の奥から浮かび上がる。
真夜が呟いた。
「これ……まさか、俺たちの——」
「——“想像の残滓”。」
重なった声は、スピーカーから響いた。
あの仮面の声。
ミスターXだ。
「見よ。これはお前たちが捨てた“世界”だ。
忘れたつもりでも、世界は覚えている。
お前たちが描き、誓い、壊した幻想のすべてが——
現実の皮膚を、静かに侵食している。」
床が波打つ。
天井の蛍光灯が悲鳴のような音を立てて揺れる。
壁を這う模様は、まるで“生きている記憶”。
真夜の「REBUILD THE WORLD」、
赤城の黒い翼、
アオイのインクの魔法陣、
白石の子どもたちの落書き——
それらが溶け合い、一つの巨大な魔法陣へと変貌していく。
アオイが息を呑んだ。
「これ、……現実に出てきてる。紙の上じゃない……!」
赤城は苦笑する。
「幻想を定義したら死ぬ、って言ってたのに……
まるで、死に抗って暴れてるみたいだ。」
白石の声は低いが、どこか誇らしげだった。
「“想像”は殺せぬ。形を変えて、何度でも蘇るのじゃ。」
その瞬間、机の上に置かれていた黒封筒がひとりでに開いた。
中から、薄いカードがふわりと浮かび上がる。
回転しながら、天井の灯りを反射し、銀色の光を散らす。
アオイがそっと手を伸ばす。
カードの表面に、光る文字が刻まれていた。
『Re:define(再定義)』
その単語を読んだ瞬間、
誰もが“何かが始まる”と直感した。
外の風が止まり、
窓ガラスの外に見える夜の街が——
ゆっくりと、形を歪ませていく。
高層ビルが滲み、
信号の色が混ざり、
現実そのものが、まるで液体のように流動し始めた。
ミスターXの声が、再び響く。
「再定義の時が来た。
お前たちの“痛み”が、
この世界を塗り替える。」
真夜が息を呑む。
アオイは震える手でカードを握りしめ、
赤城が静かに笑う。
白石だけが、目を閉じて呟いた。
「……やはり来たか。“幻想の夜明け”じゃ。」
——そして、現実が軋む音がした。
夜が、静かに、確実に歪んでいく。




