第3章 告白 ― 「我らの黒歴史」4.星野アオイの告白 ― 「空虚な才能」
アオイは、しばらく何も言わなかった。
ただ、手にしたペンをくるくると回しながら、
机の上の白紙を見つめていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……私は、ちょっと違うかも。」
彼女の声は、かすかに震えていた。
「中学の頃からずっと、漫画家になりたくて。
ノートの端っこにも、授業中のプリントにも、
キャラとか台詞とか、ずっと描いてた。」
彼女の指が、無意識に空をなぞる。
まるで、見えないコマ割りを追うように。
——高校時代。
原稿用紙の山。消しゴムのかす。
夜明けのコンビニで買った安いインク。
その全部が、夢への道だった。
けれど、現実は残酷だった。
持ち込みに行くたび、担当者は同じ言葉をくり返した。
『設定が痛いね』『中二すぎる』『こういうの、もう流行らないよ』
アオイは唇を噛みしめる。
「描けば描くほど、
“自分の好き”が恥ずかしくなっていったの。
だからいつの間にか、
“痛い”って笑う側に回ったんだ。」
彼女の声は、絞り出すように小さくなっていく。
「本当は、誰よりもその痛さを愛してたのに。」
——カチリ。
ペンが折れた音が響いた。
アオイははっとして手を見る。
折れたペン先から、黒いインクがゆっくりと机に垂れる。
その液体は、ただの汚れではなかった。
インクはひとりでに広がり、まるで生き物のように動き出す。
曲線を描き、円を結び、
やがて机の上に小さな“魔法陣”のような模様を浮かび上がらせた。
真夜が息を呑む。
赤城が立ち上がりかけ、白石が静かに制止する。
アオイはそれを見つめ、微笑んだ。
どこか懐かしげに。
「……これが、私の“黒歴史”。
笑ってもいいよ。
でも、私にとっては——
“絵”が、唯一の呪文だったんだ。」
ミスターXの声が、ノイズ混じりに響く。
「創造は破壊と隣り合う。
だが、その痛みこそが、世界を描く力だ。」
インクの魔法陣が、淡く光を放ち、
やがて机の木目へと吸い込まれるように消えていった。
アオイは折れたペンを見つめながら、
静かに呟いた。
「……もう一度、描ける気がする。」
静かな余韻。
だが、その“滲み”は完全には消えていなかった。
机の上には、かすかに黒い跡が残っている。
——まるで、彼女の魂そのもののように。




