第2章 議題開始 ― 「痛みか、誇りか」 5.異変:外を見るな
突然、真夜のスマホが震えた。
彼は驚いて端末を掴む。画面には、送信者不明のメッセージが一つだけ表示されていた。
『外を見るな。』
五人全員の視線が一斉にその文字に注がれる。
部屋の外、窓の向こうの世界が、ふと異様な静寂に包まれていることに気づく。
遠くの風の音は止み、街のざわめきも、始発の電車の音さえも、一瞬にして消え去ったかのようだった。
アオイが小さく息を吐き、声を震わせる。
「……誰が送ったの?」
赤城は腕を組んだまま、眉をひそめる。
「電波、入ってないはずだ。」
白石は杖を床に軽く打ち、低く呟いた。
「見られておる。誰かが……。」
真夜は、震える指で窓の方へ目を向けかけた。
しかし直感が告げる。
——見るな、と。
思わず視線を逸らす。
その瞬間、ガラスの向こうに、かすかな気配が残ったような気がした。
一瞬、影のような人影——いや、顔があった。
昨夜見た、六人目の影と同じ“何か”が。
会議室の時計が、カチリ、と音を立てて止まる。
秒針は動かず、時刻も静止したまま。
次の瞬間、低く響く声がスピーカーから流れた。
「——次の議題へ、進め。」
その声には、不思議な威圧があった。
まるで“外の何か”を一掃するかのように、空間を支配する。
円卓の空気は完全に変わった。
熱気と混乱が、冷たく張り詰めた緊張と、不穏な静寂へと変わる。
五人は互いに視線を交わし、
しかし、誰も言葉を発せなかった。
——夜明け前の議論は、まだ終わらない。
だが、外界と日常の境界は、すでに薄くなっていた。




