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中二病円卓会議 ― 闇と光の狭間で ―  作者: 南蛇井


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第1章 召集 ― 「選ばれし者たち」 1.導入:黒封筒

十一月某日。

東京の夜は、いつもより一段と冷えていた。

眠らない街のどこかで、五通の封筒が音もなく世界へと解き放たれる。

それは、まるで黒い蝶が羽ばたくような静けさで——

しかし確かに、運命を運んでいた。


黒羽真夜くろば・まよ


部屋の明かりは消され、窓の外の夜景だけが壁を照らしていた。

その光を背に、ひとりの少年がカーテンの隙間から夜空を見つめている。


「……また、今日も世界は動かないのか。」


黒羽真夜。十七歳。

彼の語る“世界”は、現実ではなく、彼の中でしか存在しないもう一つの世界だ。

いつか封印を解き、異能を覚醒させるはずの“もう一つの自分”。

それを信じ続けて数年、彼の現実は静かに埃を積もらせていた。


ポストが鳴った。

カタン、と小さな音。

階段を下りていくと、そこに黒い封筒が一通。

艶消しの紙に、銀のインクで翼を持つ瞳の紋章が刻まれている。


「……なんだこれ……“召喚状”か?」


呟いた声が震えた。

胸の奥のどこかが、久しぶりに熱を帯びた気がした。


赤城九郎あかぎ・くろう


終電を逃したサラリーマンの夜は、いつも同じ。

タクシーの中で缶コーヒーを飲みながら、街の灯をぼんやりと眺める。

だが今夜は、違った。


鞄を開けると、書類の隙間に“それ”が入っていた。

黒い封筒。見覚えのない筆跡。

どこからどう見ても怪文書。だが——彼は笑った。


「……ふむ、やっと呼ばれたか。」


窓の外に映る自分の姿に、彼は小さくウインクを送った。

四十二歳、会社員。

だが心の奥ではいまだ“漆黒の策謀家”を名乗っている。

彼の中二病は、もはや治るどころか、キャリアに昇華されていた。


星野アオイ


カフェの片隅。

コーヒーの香りとノートパソコンの熱が入り混じる空間で、

星野アオイは締め切りに追われていた。


漫画家志望。二十五歳。

現実的で、冷めていて、でも心のどこかで“燃えたがっている”。


タブレットに線を引いていた指が止まる。

スマホの通知が震えた。

「配達完了:黒き封書」。


「……黒き? 誰がこんな中二な……」


ため息をつきながらも、心の奥が微かにざわついた。

彼女は知らない。

今夜、彼女が描きたくても描けなかった“熱”が現実になることを。


白石麗しらいし・れい


古びた書斎。

壁一面の本棚に囲まれた机の上で、一人の老人が万年筆を走らせていた。

筆圧は強く、インクは黒よりも深い。


窓の外で風が鳴った。

その音に重なるように、机の上の古文書が微かに揺れる。

そして、ページの間から——黒い封筒が滑り落ちた。


「また、夜が私を呼ぶか。」


白石麗、六十八歳。

元教師。

かつて教え子たちに「先生、それ中二っす」と笑われながらも、

彼は信じていた。

“中二病”とは、人間が最初に手に入れる哲学だと。


封筒を開き、薄い笑みを浮かべる。

「黒の賢者」——かつての名が、胸の奥でかすかに疼いた。


ミスターX


暗闇。

照明も月明かりもない部屋に、ひとりの影がいた。

テーブルの上には、五通の黒い封筒が並べられている。

それぞれに異なる筆跡、異なる香り、異なる未来。


影の指先が、それを一通ずつなぞる。

まるで五つの魂を確かめるように。


「選ばれし者たち……再び、集う刻が来た。」


声は低く、金属の響きを帯びていた。

やがてその姿は煙のように薄れ、机の上の封筒も消えていく。


残されたのは、たった一枚の紙切れ。

銀の文字で書かれた言葉——


『議題:中二病とは何か。』


(暗転)


夜が、静かに蠢きはじめる。

そして物語もまた、封印を解かれた。

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