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次の日から、私たちは行動した。


放課後、ルルと一緒に校内の掲示板を整理したり、

落ちていたプリントを拾って職員室に届けたり。


清掃の手伝いもしてみた。

ゴミ箱のビニールを替えて、誰も見ていない廊下を黙って拭いた。


小さなことでも、積み重ねれば何かが変わると思った。


けれど。


何も変わらなかった。


価標は、胸の奥で沈黙したまま、

無色のまま、微動だにしなかった。



階段の踊り場で、私たちは立ち止まっていた。


下の階では、一つ下の学年の委員長が、生徒を叱りつけていた。

胸に燃えるような紅の価標を光らせて。


「お前さ、やる気あるのか?

 そんな薄い色じゃ、一生底辺だぞ!」


叱られているのは、まだ色が淡い生徒だった。

委員長は真正面から睨みつけ、声を張り上げる。

その姿に、周りの生徒たちは「さすが委員長だ」と頷いていた。


……でも私には、それが“正義”というより“攻撃”に見えた。


ルルはしばらく黙っていたが、ふっと息をもらした。

「……もしかしたらさ。

 私たちが今までやってきたことって、“自分のため”だったのかも」


私は思わずルルを見た。


「色が欲しいからって理由で動いてた。

 だから、価標は何も反応しなかったんだと思う」


その声には、ひりつくような悔しさが混じっていた。


ルルは、紅の光を背負った委員長ではなく、俯く生徒に視線を落とした。

「……でも、“誰かひとり”のために動けたら、違うのかもしれない」



「ねえ、アリス」

ルルは手すりに肘をかけ、少し笑った。


「こんなにさ、価標の色をつけるために──

 “いいこと”をいっぱい頑張っても、全然、色がつかない」


私はうなずいた。それは私も同じだったから。


ルルはかすかに笑って続ける。

「なのに他の人たちは、“それっぽいこと”をちょっとやっただけで、すぐに色づく。

 たとえそれが“助けるフリ”でも、“共感してるフリ”でも」


その言葉に、また胸の奥がひりついた。


「だったら私は──

 そんな“フリ”な人たちを目指すんじゃなくて、

 “なりたい自分”をちゃんと選びたい」


私は、息をのんだ。


「誰かに評価されなくても、色がつかなくても、

 “自分が信じたこと”をしたい」


その横顔は、どこか寂しげで、でもすごく、強かった。


「……私がしたいことをして、

 価標に色がつかなくても、まぁ……もう一生色なしでいいや」


そう言ったとき、ルルの声には、ほんのわずかに震えが混じっていた。


私はその震えに、ただそっと寄り添うようにうなずいた。


ルルは、風に乱れる髪を耳にかけて、少しだけ笑った。


「だから──」


「私、したいことがあるの」


「まだうまく言えないけど……

 たぶん“誰かのためになること”」


その言葉の先に、何か決意のような光があった。

だけど、その瞳の奥には、微かに“削れていく音”のような痛みもあった。


私はそのときまだ知らなかった。


この“無理に大きく動こうとした一歩”が、

ルルの価標の未来を決める、始まりになることを。

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