表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/53

53

金稼ぎの作業を終えて、シェードの空気は少しだけ柔らかくなっていた。

アリスは、隣で黙々と荷物を片付けるミオの横顔をちらりと見る。

昨日までより、距離が近くなった気がして──ほんの少し、うれしかった。


「……ねえ、昨日の話。ありがとう」

自然に口からこぼれた言葉に、ミオは首をかしげる。


次の瞬間、ミオはポケットから小さな布の人形を取り出した。

それは以前、アリスに作ってくれたものと同じ形の人形。

ミオはその人形の腕を、自分の胸の前でそっと交差させてから、ゆっくり開いた。


「……何かの合図?」

アリスが首をかしげると、ミオは小さくうなずき、もう一度同じ動作をしてみせる。

交差した腕をほどくように開くその仕草は、不思議と胸の奥を温かくした。


ミオは笑みともため息ともつかないやわらかな表情で、今度は人形の腕をアリスのほうに差し出した。

アリスも笑って、人形を受け取り、まねをしてみる。

人形の腕を交差させ、ゆっくりほどく──ただそれだけなのに、

胸の奥にふわりと灯りがともった気がした。


その日から、二人はときどきこの合図を使うようになった。

声にできない想いを伝える時、照れくさくて言葉にしづらい時──

人形の腕を交差させ、ほどく。

それだけで、お互いに「分かってる」と通じ合える、小さな秘密になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ