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金稼ぎの作業を終えて、シェードの空気は少しだけ柔らかくなっていた。
アリスは、隣で黙々と荷物を片付けるミオの横顔をちらりと見る。
昨日までより、距離が近くなった気がして──ほんの少し、うれしかった。
「……ねえ、昨日の話。ありがとう」
自然に口からこぼれた言葉に、ミオは首をかしげる。
次の瞬間、ミオはポケットから小さな布の人形を取り出した。
それは以前、アリスに作ってくれたものと同じ形の人形。
ミオはその人形の腕を、自分の胸の前でそっと交差させてから、ゆっくり開いた。
「……何かの合図?」
アリスが首をかしげると、ミオは小さくうなずき、もう一度同じ動作をしてみせる。
交差した腕をほどくように開くその仕草は、不思議と胸の奥を温かくした。
ミオは笑みともため息ともつかないやわらかな表情で、今度は人形の腕をアリスのほうに差し出した。
アリスも笑って、人形を受け取り、まねをしてみる。
人形の腕を交差させ、ゆっくりほどく──ただそれだけなのに、
胸の奥にふわりと灯りがともった気がした。
その日から、二人はときどきこの合図を使うようになった。
声にできない想いを伝える時、照れくさくて言葉にしづらい時──
人形の腕を交差させ、ほどく。
それだけで、お互いに「分かってる」と通じ合える、小さな秘密になった。




