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アリスが赤いワンピースの人形を見つめていると、ミオはふっと小さく首をかしげた。

そして、人形をアリスの手からそっと取り返す……と思いきや、両手で包み直し、そのままアリスの胸元に押し戻してきた。


「……え、いいの?」

ミオは小さくうなずく。

その迷いのない動きに、アリスは言葉を失ったが、すぐに「……ありがとう。大事にする」とだけ口にした。


作業を終えて、二人は木箱をツクモのもとへ運び、そのまま金稼ぎの帰り道を歩く。

夕方の風が、ほんの少し涼しく感じられる時間帯だった。


角を曲がったところで、小さなすすり泣きの声が耳に入った。

見ると、街灯の下で小さな男の子がうずくまっている。

頬は涙で濡れ、手にはぐしゃぐしゃになった紙袋。


ミオは一瞬も迷わず駆け寄った。

しゃがみこみ、子どもと同じ目線になって、そっと肩に手を置く。

ポケットから飴を一粒取り出し、差し出すと、泣きじゃくる小さな手が恐る恐る受け取った。


次に、ハンカチでそっと涙をぬぐい、軽く頬を押さえてあやす。

まるで長年の習慣のように、自然でやわらかな手つきだった。


数分もしないうちに、子どもはしゃくり上げをやめ、小さな笑顔を見せる。

ミオはその頭を軽く撫でてから、周囲を見回し、少し離れた場所で探していた母親のもとへ連れて行った。


アリスはその光景をただ黙って見つめていたが、歩き出してからぽつりと言った。


「今の……すごく慣れてたね。

 先生みたいだった」


ミオは、ほんのわずかに苦笑いを浮かべるだけだった。

言葉はなくても、その表情だけで“理由”を隠そうとしているのが分かった。


アリスはそれ以上は聞かず、胸元の人形をぎゅっと抱きしめた。

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