46
夕暮れの街を、私とナズナは並んで歩いていた。
作業の道具を入れた布袋が肩に食い込み、腕がじんわりとだるい。
沈黙が続いたけれど、気付けば私はぽつぽつと話し始めていた。
「……あそこにいたら、息ができなかったんだ。
学校も、家も、どこも居場所じゃなくて。
弟はちゃんと色があって、両親に可愛がられてたけど……私はずっと無色で」
ナズナは前を向いたまま、無言で歩く。
「ルルだけは、そばにいてくれた。
あの子が、あんなふうになるまでは……」
声が少し震え、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
するとナズナが、ぽつりと言った。
「……お前、自分のことペラペラ話しすぎだろ。
普通は、弱みなんて見せたら足元すくわれるだけだぞ」
「ここなら平気でしょ」
思わず反発すると、ナズナは小さく鼻を鳴らした。
「……まあ、人に言えるだけマシだな。
俺はずっと、誰にも話せなかったから」
「……なんで?」
気づけば私は聞いていた。
一瞬、ナズナの足が止まりかける。
視線を逸らして、「しまった」とでも言うように唇を噛む。
しばしの沈黙。だが、ナズナはためらいながらも、低く続けた。
「……俺は、小さい頃から“優等生”を演じる訓練をさせられてた。
色を得るための笑い方、言葉、態度──全部決められてて。
名門の学校で、どの色も完璧に見せられるように作られてた」
言いながら、自分で気づいたように小さく舌打ちする。
「……クソ、余計なことまで喋ってんな」
でも、それきり口を閉じることはできなかった。
「……一度、失敗しただけで全部終わった。
色も、評価も、立場も。俺っていう存在そのものが、要らないって突きつけられた」
その声は乾いていて、それでいて少し震えていた。
私はしばらく黙っていたけれど、ふっと口が動いた。
「……ナズナも、結構ペラペラ話すじゃん」
「……っ、うるさい」
横を向いたナズナの耳が、かすかに赤くなった気がする。
思わず、小さく笑ってしまった。
嫌なことばかり言うくせに、時々こうして奥を見せてくる。
やっぱり、嫌なやつだけど……きっと、良いやつだ。




