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夕暮れの街を、私とナズナは並んで歩いていた。

作業の道具を入れた布袋が肩に食い込み、腕がじんわりとだるい。


沈黙が続いたけれど、気付けば私はぽつぽつと話し始めていた。


「……あそこにいたら、息ができなかったんだ。

 学校も、家も、どこも居場所じゃなくて。

 弟はちゃんと色があって、両親に可愛がられてたけど……私はずっと無色で」


ナズナは前を向いたまま、無言で歩く。


「ルルだけは、そばにいてくれた。

 あの子が、あんなふうになるまでは……」


声が少し震え、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


するとナズナが、ぽつりと言った。


「……お前、自分のことペラペラ話しすぎだろ。

 普通は、弱みなんて見せたら足元すくわれるだけだぞ」


「ここなら平気でしょ」

思わず反発すると、ナズナは小さく鼻を鳴らした。


「……まあ、人に言えるだけマシだな。

 俺はずっと、誰にも話せなかったから」


「……なんで?」

気づけば私は聞いていた。


一瞬、ナズナの足が止まりかける。

視線を逸らして、「しまった」とでも言うように唇を噛む。


しばしの沈黙。だが、ナズナはためらいながらも、低く続けた。


「……俺は、小さい頃から“優等生”を演じる訓練をさせられてた。

 色を得るための笑い方、言葉、態度──全部決められてて。

 名門の学校で、どの色も完璧に見せられるように作られてた」


言いながら、自分で気づいたように小さく舌打ちする。

「……クソ、余計なことまで喋ってんな」


でも、それきり口を閉じることはできなかった。


「……一度、失敗しただけで全部終わった。

 色も、評価も、立場も。俺っていう存在そのものが、要らないって突きつけられた」


その声は乾いていて、それでいて少し震えていた。


私はしばらく黙っていたけれど、ふっと口が動いた。


「……ナズナも、結構ペラペラ話すじゃん」


「……っ、うるさい」

横を向いたナズナの耳が、かすかに赤くなった気がする。


思わず、小さく笑ってしまった。

嫌なことばかり言うくせに、時々こうして奥を見せてくる。


やっぱり、嫌なやつだけど……きっと、良いやつだ。

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