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その夜、部屋の灯りが落ちて、静けさが降りた。
外からかすかに風の音が聞こえる。
毛布にくるまりながら、アリスは目を閉じた。
……けれど、眠れない。
頭の中に、ルルの笑顔が浮かんでは消える。
あの時の声、あの時の表情。
そして、最後に見た姿。
……あのあと、どうなったんだろう
助かったのか、もうこの世にいないのか。
考えるほど、胸の奥がざわつく。
もし助かっていないなら。
もし助かっていたとしても──私は、あの場から逃げた。
「……なんか、うなされそうな顔してる」
不意に声がして、アリスは目を開けた。
隣の寝袋で、ナズナがこっちを見ていた。
「……放っといてよ」
アリスは少しだけ棘を込めて返す。
「ま、放っといたら放っといたで、あとで文句言うタイプでしょ」
ナズナは肩をすくめた。
「……私だけ、生きてていいのかな」
アリスは思わず、心の奥にあった言葉をこぼしていた。
ナズナは少しだけ目を細める。
「いいも悪いも、生きてんだから仕方ないじゃん」
あっけらかんとした口調だったが、言葉の奥には確かな温度があった。
「それに……ルルってやつ死んだかどうかも分かんないんだろ?」
「……うん」
「だったら、今は勝手に結論つけんなよ」
「……」
「もし無事だったら、お前が勝手に死んだって知ったらムカつくかもな」
アリスは小さく息をのんだ。
「守れなかったからって、お前の命まで一緒に捨てる理由にはならないよ」
ナズナは言い切った。
「そいつのこと忘れたくないなら、ちゃんと生きて、ずっと覚えてりゃいい」
アリスは言葉を返せず、毛布を頭までかぶった。
(……うるさい)
そう心の中で呟きながらも、胸の奥の重さが少しだけ軽くなっていた。
……嫌なやつ。
だけど、ちょっとだけ……いいやつ。
そう思いながら、アリスはようやく眠りに落ちた。




