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通路に吊るされたランプが、昼と変わらない橙色の光を放っていた。
シェードの中では、外が完全に夜になったことさえ分かりにくい。
空も月も見えず、ただ薄暗い空間の温度だけが、じわじわと冷えていく。
そんな中、奥の扉が重い音を立てて開いた。
ひやりとした外気と、ほんのわずかな潮の匂いが流れ込む。
「ただいま」
低い声とともに、ツクモとヨルが姿を現した。
ヨルは肩から絵具のついた布袋を提げ、ツクモは背中に大きな包みを負っている。
「外はどうだった?」ネリが尋ねる。
ツクモは荷を下ろしながら短く答える。
「……今のところ、お前らの捜索願いは出てない。だが、油断はするな」
ヨルが壁に寄りかかり、指先で空を描くように動かす。
「学校は……たぶん、ルルの件を消すつもりだね。
表向きは“事故”か、もしくは“存在ごと”なかったことにする」
アリスの心臓がひとつ、強く跳ねた。
ナギも表情を固くする。
ツクモは二人の前に立ち、ゆっくりと視線を落とした。
「いいか、お前ら。外に出れば、制度の目はすぐにお前たちを見つける。
生き延びたいなら、ここで身を潜めるしかない」
言葉を区切り、三本の指を立てる。
「一つ──誰かの“色”を馬鹿にしないこと」
「二つ──外に出るときは必ず二人以上で行動すること」
「三つ──仲間の過去を勝手に掘り返さないこと」
「この三つは、ここで生きるための掟だ。
破った者は、ここに居場所をなくす」
ナギが低く問う。「破ったら、どうなるんですか?」
ツクモは短く返す。「そうならないように、お互いが見張る。
この場所は、信頼でしか成り立たない」
「この場所は、深い海の底みたいなもの。
泳ぎ出れば、すぐに網が待ってるよ」
ヨルが口を開ける。
ナズナが口の端を上げる。
「ま、三つ目は特に気をつけな。人の過去ってのは地雷だらけだから」
ミオは黙って二人を見つめ、人形の袖をそっと直した。
その目は責めるでも、甘やかすでもなく、ただ“見て”いた。
アリスとナギは、ほぼ同時に頷いた。
この場所が、ただの避難所ではなく“生き延びるための共同体”なのだと、
ようやく理解し始めていた。




