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翌朝の空は、やけに白く濁っていた。
雲なのか、光なのか、それともただ、私の目の奥が霞んでいるのか。
校門前でルルを見つけたとき、
何かが、ほんの少しだけ違って見えた。
髪。
いつも右耳の上に留めていた、お気に入りのヘアピンがなかった。
小さな銀の羽のかたちで、光の角度によって色が変わるやつ。
「これ、アリスの目の色に似てるでしょ」って、何度も言ってくれたやつ。
朝寝坊しただけかもしれない。忘れたのかもしれない。
でも私は、心のどこかで、
**“これはルルじゃない”**って思ってしまった。
彼女は私の視線に気づいて、髪にそっと触れた。
「あ……今日はつけてないだけ」
そう言って、笑った。
笑顔――の“かたち”だけをして。
「あれ? なんかあった?」
私がそう言うと、ルルは少しだけ肩をすくめて、笑った。
「ううん、べつに。朝バタバタしてただけ」
声の調子はいつも通り。
でも、何か違う。
いつもなら、「寝坊してさ」「お兄ちゃんが鏡使っててさ」って言いそうなのに
今日は、それがなかった。
そのまま、「じゃあ、またあとでね」と言って、
ルルは手を振って歩き出した。
歩幅が、いつもよりほんの少し小さく見えた。
呼び止めようとして、やめた。
“なんかあった?”――たぶん、その聞き方が、
ルルには重かったのかもしれない。
それとも、
私に言ったところで、何も変わらないって、思ったのかもしれない。
あるいは、私のことまで巻き込みたくなかったルルの優しさかも。
……それとも、
そんなことばかり、考えていた。
校舎に入ると、すぐに階段の音と話し声に飲まれる。
「あ、昨日の投稿見た?」
「また〇〇の黄色が強くなったんだって!」
色の話ばかりの廊下を、私は歩いていく。
足元に、誰かが落とした色付きのピンバッジが転がっていた。
赤と金の間のような、なんとも言えない色だった。
私の価標は、まだ無色のまま。
でも、自分が何色になりたいのか、分からなかった。
だから私はあの時
ただ見送ることしか、できなかった。