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4

翌朝の空は、やけに白く濁っていた。


雲なのか、光なのか、それともただ、私の目の奥が霞んでいるのか。


校門前でルルを見つけたとき、

何かが、ほんの少しだけ違って見えた。


髪。


いつも右耳の上に留めていた、お気に入りのヘアピンがなかった。


小さな銀の羽のかたちで、光の角度によって色が変わるやつ。

「これ、アリスの目の色に似てるでしょ」って、何度も言ってくれたやつ。


朝寝坊しただけかもしれない。忘れたのかもしれない。

でも私は、心のどこかで、

**“これはルルじゃない”**って思ってしまった。


彼女は私の視線に気づいて、髪にそっと触れた。

「あ……今日はつけてないだけ」


そう言って、笑った。


笑顔――の“かたち”だけをして。


「あれ? なんかあった?」


私がそう言うと、ルルは少しだけ肩をすくめて、笑った。


「ううん、べつに。朝バタバタしてただけ」


声の調子はいつも通り。


でも、何か違う。


いつもなら、「寝坊してさ」「お兄ちゃんが鏡使っててさ」って言いそうなのに


今日は、それがなかった。


そのまま、「じゃあ、またあとでね」と言って、

ルルは手を振って歩き出した。


歩幅が、いつもよりほんの少し小さく見えた。


呼び止めようとして、やめた。


“なんかあった?”――たぶん、その聞き方が、

ルルには重かったのかもしれない。


それとも、

私に言ったところで、何も変わらないって、思ったのかもしれない。


あるいは、私のことまで巻き込みたくなかったルルの優しさかも。


……それとも、


そんなことばかり、考えていた。


校舎に入ると、すぐに階段の音と話し声に飲まれる。

「あ、昨日の投稿見た?」

「また〇〇の黄色が強くなったんだって!」


色の話ばかりの廊下を、私は歩いていく。


足元に、誰かが落とした色付きのピンバッジが転がっていた。


赤と金の間のような、なんとも言えない色だった。


私の価標は、まだ無色のまま。

でも、自分が何色になりたいのか、分からなかった。


だから私はあの時

ただ見送ることしか、できなかった。


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