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「……これから、どうしたいか」
ネリの声は穏やかで、
でも、逃げ場のない問いだった。
ミオは黙ったまま、
膝の上に人形を抱いて、
その目でただ私たちを見ていた。
私は、
何かを言おうとしたけれど──
言葉が喉の奥で詰まった。
「……分からない」
小さく、でもはっきりと、そう言った。
「私、何かをしたいって思うよりも前に、
ずっと、“しないといけないこと”に追われてたから」
「気づいたら、
誰かの正しさとか、
制度の決まりとかばっかりで……」
「自分が、何を望んでたかなんて、もう分からなくなってた」
隣で、ナギも息を吐くように言った。
「俺も、似たようなもんだよ。
誰かに言われた通りに、
怒られないように、
白銀らしく、波風立てないように生きてきただけで──」
「でも、
それがルルを見殺しにした原因だったって気づいたとき、
もう黙ってるのが怖くなった」
ネリは、静かに微笑んだ。
「分からないって言えるのは、ちゃんと探してる証拠よ」
ミオは何も言わず、
人形の首元をそっと撫でた。
その仕草だけで、
なぜか「大丈夫」と言われたような気がした。
外の空気は冷たくて、
静かで、
でも──
少しだけ、
呼吸がしやすかった。
「……今日は、寝なさい」
ツクモの声が、遠くから届いた。
「明日になったら、
少しずつ“ここでできること”を教えていく」
その言葉に、
私とナギは、そっと頷いた。
眠れるか分からなかったけど、
それでも、
“今日はもう追われなくていい”
そう思えただけで、
少しだけ、心がほどけた。




