表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/53

35

「……これまた、弱そうな子が来たね」


低く、けれどどこか若さの残る声が耳に届いた。


振り向くと、そこに立っていたのは、中性的な顔立ちの少女だった。

長めの髪を無造作に結び、瞳は静かに鋭く光っている。


その目が、アリスとナギを順に見据える。


「ここに来たからって、全部チャラになると思わないでね。

シェードは、安全だけど楽園じゃないから」


ナギが一歩前に出ようとしたとき──


「ナズナ、そういう言い方はやめて」


さっきまで糸を巻いていた女性──ネリが、優しくたしなめた。


ナズナと呼ばれたその少女は、肩をすくめて言葉をやわらげる。


「……怒ってるわけじゃない。ただ、“痛みのままじゃ生きていけない”ってこと、先に伝えといただけ」


その視線は、どこか自分自身にも言い聞かせるようだった。


ふと横を見ると、隣にミオが座っていた。

気付かないうちに移動していた。


膝に古びた人形を抱いた、沈黙の女性。


彼女は何も言わず、ただこちらを見ていた。

その眼差しは、壊れたものを拒まず、すべてを包むような静けさに満ちている。


何も語らなくても、彼女の“存在そのもの”が、どこか心を撫でていくようだった。


私は、不意に胸が詰まった。


──壊れたままで、ここにいていいの?


そんな問いに、「いいよ」と言ってくれているようなまなざし。


言葉ではなく、ぬくもりで伝える存在。


その隣で、ネリがそっとアリスの手元を見つめる。


「あなた、何かを守ろうとして黒くなったのね」


「……うん」


声に出してみて、ようやくそれが“事実”として自分の中に落ちた。


「でも、誰も救えてない」


ネリは、穏やかに首を横に振る。


「救えなかったからって、あなたの価値が失われるわけじゃないの。


あなたの中に、今もその子の名前が残っている。


それはもう、十分な“証”よ」


その言葉が、胸にそっと染み込んでいった。


ナギが少し居心地悪そうに、口を開いた。


「……俺は、実は価標黒くなったわけではなくて」


その言葉に反応したように、ナズナが口を挟む。


「白銀か。つまり“優等生”。

制度の中の人間が、破標を助けてここに来たってわけ?

ルールを守っているんだか、どうだか」


その言い方に、ナギが一瞬だけ顔を曇らせる。


ネリが静かに言葉をつなぐ。


「でもね、ここに来た人の中には、もともと白銀だった人もいる。私だって、昔は白銀だったわ。


“何を守ったか”が色を変えるんじゃなくて、


“どう在りたかったか”が、本当の価値を照らすのよ」


「色は、社会の評価じゃない。

これからのあなたたちが、何を見て、何を選ぶか──


“記憶と選択”で、価標は変わっていく」


私は、無意識にルルのヘアピンに触れていた。


「……私、自分のことも、価標のことも……もう、よく分からない。


でも──ルルの痛みに向き合った時だけ、


ほんの少し、自分が“何かになれた”気がしたの」


ネリが小さく微笑む。


「その感覚を、なくさないで」


ナギが、それに応えるように静かに言った。


「俺も、もう見て見ぬふりはしないって決めた。

だから……ここで、何かを始めたい」


その言葉に、ツクモがようやく口を開いた。


「ならば、シェードで過ごす間に、一つずつ思い出すといい。


君たち自身の“色”を。

本当に、欲しかった未来を」


私は、そっと目を閉じた。


──静かだけど、確かに息ができる場所。


言葉のないミオのぬくもりと、

言葉を与えてくれるネリの優しさが、


少しずつ、私の中の“壊れていた部分”を包んでいく。


この“影”の中でなら──


私も、もう一度、自分を始められる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ