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「ねぇ……」


アリスの声が震えていた。


「きっと、大丈夫だよ」


「お願い……こっちに戻ってきて」


アリスは手を差し伸べた。


屋上の風が、その手をすり抜けていく。


ルルはその手を見つめた。


一瞬だけ、瞳の奥が揺れた。


そして、口を開いた。


「……我を映せ」


胸元に、静かに浮かび上がる標。


それは、


完全な“黒”だった。


ただの濁りじゃなかった。

ただの影でもなかった。


まるで、世界の色すべてが混ざりきって潰えたような、

深く、重く、底なしの闇。


アリスは息を呑んだ。


「これでも──

まだ“間に合う”と思う?」


ルルの目から、涙が一筋、こぼれ落ちた。


「あのグレーの子と比べものにならないくらい、

私の価標、真っ黒になってしまったんだよ」


アリスは必死に首を振った。


「だからって、死ぬことないよ」

「黒になったって、生きてていいじゃん」


「仮に、今選定会に行ったとして、どうするの?」

ルルの声は、もう感情を超えていた。


「『体調が悪いから明日にします』って言うの?」


アリスは必死だった。


「……うん、それでもいいよ。明日にすればいい。

先生にお願いして、なんとか──」


「もう、“私の価標が黒になった”って、

何人かは知ってるんだよ」


「それが広まったら、私は“破標”として扱われる。

捕まるか、隔離されるか──」


「どちらにせよ、私はもう“選べない”」


「ねぇ……でも、もしかしたら、

治せる方法があるかもしれないじゃん……」


アリスの声が、涙でにじんでいた。


「誰も知らないだけで、

本当は、黒から戻る道があるかもしれないじゃん……」


「私が……私が一緒に探すから……!」


でも、

ルルは、うつむいたままだった。


アリスの言葉に、


何も、返さなかった。


それは、

返す気がないんじゃなくて──


もう、返す余力さえ残っていない


そんな沈黙だった。


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