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「届かない声」
私は、自分のことが嫌いだった。
友達だったのに。
誰よりも、そばにいたのに。
ルルが苦しんでいたのを、
何度も、何度も見ていたのに──
私は、何もできなかった。
「先生が聞いてくれないなら、別の方法で……」
何度もそう思った。
でも、怖かった。
誰に話しても無視されるだけで、
私は、結局いつも“諦める側”だった。
ただ見ていただけの自分が、
ルルを救えるわけがない。
それが分かっていても──
時間だけが、無慈悲に過ぎていった。
そして、
校内放送が鳴った。
「──選定会を開始します。生徒は講堂に集合してください」
私は、胸が張り裂けそうな気持ちで、
人とは逆の方向へ歩いた。
向かうのは、屋上。
最後に、ルルと向き合わなければならない。
逃げちゃいけないと、心が叫んでいた。
扉を開けた瞬間、風が私の頬を打った。
そこに、ルルはいた。
背を向けて、空を見ていた。
校舎の向こうには、夕暮れがにじみ始めている。
「……教室、戻ってなかったんだね」
私の声は、風に削られて、かすれた。
ルルは、ゆっくりと振り返った。
その目は……何も映していなかった。
「アリス」
「私、やっぱり間違ってたんだよ」
「正しさなんて意味なかった。
色なんて、誰かの都合でつけられてるだけだった。
助けても、見捨てても、
黒になれば全部“悪”になるんだよ」
私は、返す言葉を失った。
でも、今度こそ──逃げちゃいけない。
「ルル……ごめんね」
私の声は、震えていた。
「私、ルルのこと……ちゃんと考えられてなかった」
「ルルが変わっていくのを見て、
私も変われたつもりでいたけど……
全然、変われてなんかいなかった」
「だから、ずっと……私の価標も無色のままなんだと思う」
ルルは微かに笑った。
「大丈夫。アリスはまだ無色だから」
「やり直せるよ」
その言葉が、胸を刺した。
「じゃあ、ルルも──まだ間に合うでしょ?」
私がそう言うと、ルルは黙った。
風の音が、時間の流れを引き延ばすように響いていた。
やがて、
ルルは静かに屋上の縁に足をかけた。
「ルル……?」
まさか。
そんなわけ、ないよね?
「選定会に……行こう」
私は震えながら、手を伸ばした。
「ルルなら、絶対──」
でもルルは、私を見ずに、静かに言った。
「ねえ、アリス」
「一度でも黒になってしまったものは、
もう“自分で”人生を選べないんだよ」
「私が何を言っても、
何を願っても、
誰かの声じゃ、もう覆せない」
「だったら、せめて──
最後の選択くらい、自分で決めたいじゃない」
その声は、穏やかだった。
でも──どこか、もう向こう側にいる人の声だった。
「ルル……やだよ……」
私は、心の中で泣きながら叫んでいた。
どうか、消えないで。
お願い。
私の唯一の居場所でいて。
でも──
その祈りは、風にさらわれていった。




