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キーンコーンカーンコーン──
校内放送のチャイムが、
いつもより低く響いた気がした。
その音は、まるで──
“進め”と命じる鐘のように聞こえた。
私は、ルルの横顔を見つめていた。
黒い気配が、
まるで彼女の感情に連動するように揺れていた。
「行かないと……」
私は心の中でつぶやいた。
このまま、
ルルのそばにいても、
私には何もできない。
何か言っても、
きっともう届かない。
それなら──
いったん離れて、
先生に話して、
この状況を説明すれば……
きっと、誰かが動いてくれる。
ルルの価標は、
あのときグレーの子を止めたことで色づいた。
それが“正しさ”の証明になる。
私がそう説明すれば、
きっと先生たちだって、
ちゃんと分かってくれるはず──
……きっと、大丈夫。
私はルルの隣にしゃがんで、
声をかけた。
「ルル……少し教室戻るね。
先生にもちゃんと話してみる」
ルルは、顔を上げなかった。
黒い気配は、
私の言葉にも、動じなかった。
私はそれでも笑って、言った。
「ルルも……早く教室戻りなね」
それだけを残して、
私は背を向けた。
足音が遠ざかるたびに、
心のどこかが、きしんでいた。
でも、私は信じたかった。
正しさは、
きっと誰かが見ていてくれるはずだって。




