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「前々から、嫌な予感がしていたんだ」
そう思ったのは、
選定会の朝。
グレーの子が、学校から“消えた”あの日──
ルルは何も呼び出されなかった。
誰からも責められなかった。
むしろ少し色がついた価標を、
教師に軽く褒められていたくらいだった。
「正しいことをしたはずだった」
「なのに……」
その“なのに”が、
今日という日になって、牙を剥いた。
廊下に、
床に、
トイレの鏡に、
教室の机に、
“黒の引き金は、お前だ”
“正義面した色なしのくせに”
“ルル=破標を生んだ者”
そう書かれた紙が、
学校中にばら撒かれていた。
チラシというより、“断罪の札”みたいだった。
背後には、
あの主犯格の名前こそなかったけど、
やたらと周囲の笑い声や、
「やっぱそうだったんだー」
「あのタイミング、怪しかったもんね」
という“勝手な納得”が聞こえてきた。
真っ黒になったグレーの子の理由が、
まるで“ルルのせい”だったかのように──
世界が、都合よく物語を作り替えていた。
私は、
心臓を掴まれるような焦りと共に、
廊下を駆けた。
ルルは──
あの子は、この嘘に、
どんな顔をして立ってるんだろう。
校舎の影、
いつもの中庭。
そこに立つルルの背中を見つけた時──
私の足が止まった。
黒い。
制服の背中でも、髪でもない。
“空気そのもの”が、黒くにじんでいた。
微かに揺れるように、
でも確かに、ルルのまわりには
“見えない濃霧”のようなものが漂っていた。
私は、
怖くて、
でも、逃げたくなくて──
恐る恐る、ルルに近づいた。
「ルル……?」
声が震えたのは、
恐怖のせいだけじゃなかった。
それは、
“大切な誰かが黒く染まってしまう瞬間を、私は見てしまうのかもしれない”
そんな、
予感だった。




