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朝、目が覚めると部屋の壁のポスターがまた少し色褪せていた。
同じように、私の心も少しずつ色をなくしている気がする。
カーテン越しに射す光は、暖かくも冷たくもない。
ただ、今日がまた“始まってしまった”というだけだった。
私の制服の左腕には、まだ何もついていない。
けれど、もうすぐそこに“色”が縫い付けられる。
その色で、進路も、評価も、未来も、決まる。
朝食の席で、弟が笑っていた。
「お姉ちゃん、また無色で居残り指導だってさ」
母は黙ってテレビを見ていた。
父は新聞をめくる音だけを響かせながら、「早くまともになれ」と吐き捨てる。
私は、パンの耳だけを口に入れて、立ち上がった。
「いってきます」
誰も返事をしなかった。
誰も聞いてないと分かってるのに、
それでも私は、
“誰にも届かない声”を、今日も置いていく。
教室に着いても、私は“いないもの”として過ぎていく。
クラスの中には、すでに価標に色を灯した子が何人もいる。
その色を見て、誰かが誰かに話しかけ、誰かを避け、誰かを崇める。
私の席には“色”がない。
だから、誰の言葉も、まっすぐ私には届かない。
でも、
ひとりだけ、私に目を向けてくれる子がいた。
その子の価標も、無色だった。
名前は――ルル。
私たちは、
価値のない者同士で、
かすかなまなざしだけで通じ合っていた。