17
「私が一人でも、言いたかったんだ。
“あなたはあなたのままでいていい”って」
ルルが、そう言って空を見上げた瞬間──
私は、はっとした。
彼女の体から、
ごくごく淡い光のようなものが、ふわりと広がった気がした。
それは風に触れても消えてしまいそうな、
でも確かにそこにある、微かな“揺らぎ”。
「ルル……!」
私は思わず声をあげた。
「価標、見て」
ルルが胸元に手をやる。
制服の上から、
その下にある価標の感触を、そっと確かめるように。
そして、目を閉じて、言った。
「……我を映せ」
一瞬、風が止んだように感じた。
その直後、ルルの胸元に、
ほんの少しだけ、色がにじんでいた。
それは、まだ“色”と呼べるかどうかもあやしいほどの、
淡く、淡く、揺らぐ影のような光だった。
でも──
私の目には、それが確かに見えた。
ルルの行動が、
誰にも褒められなくても、
誰にも気づかれなくても、
価標だけは、見ていた。
ルルは、小さく息を吸った。
「……私、誰にも肯定されなかったのに」
「先生も、クラスの子も、
アリスですら、反対したのに」
「でも、価標だけは──」
彼女の声が、そこでかすれた。
しばらく沈黙があった。
「……価標のせいで、ずっと苦しかったのに」
「なのに今さら、
少し色がついただけで、救われた気になってる自分が──
めちゃくちゃ悔しい」
ルルはそう言って、
小さく笑った。
笑ったのに、
その目は、静かに濡れていた。




