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“我を映せ”――誰もがそう言って、胸に色を灯す。
その色が、名前より先に、その人を語る世界。
価標。
胸の奥から現れる結晶のような石が、人の“価値”を証明する。
緑は、善。青は、人気。紫は、傷。
橙は、服従。黄は、希望。白銀は、沈黙。紅は、断罪。
そして――黒。
それは、“社会調和を著しく乱した者”にだけ現れる色。
価標は、人の心と連動して静かに色を変えるもの。
誰かの言葉、感情、行動のすべてが、価標を濁らせたり、光らせたりする。
ただの装飾じゃない。
それは、この世界において最も正しい“測定器”とされていた。
私の名は、アリス。
高校三年。価標は“無色”――赤ん坊と同じ。
もうすぐ、私の価標は最終的に決定され、制服に縫い付けられる。
世界は今日も、何もかもを“色”で決めていく。
でも――
私の中には、何色にも染まらないまま、
いくつもの色が混ざって濁った、“名もない色”が静かに沈んでいた。