Who!
1話目です。
それは遠い昔のこと。
神々は悩んでいた。
どのようにすれば、多種族が手を取り合い、平和な世界を作れるか。
それは、神がこの地に命を落とした時から続く永遠の悩みである。
しかし、神がそう悩んでいる間にも、種族同士での戦争と差別は悪化するばかり。
ついに見かねて、神々は種族を分断し、一つの物語として本の中に封印した。
それと同時に本の中で「ナレーション」という物語の説明や物語の構築といった神の意識を切り離された存在が誕生した。
『って言うのが俺っちだが、理解できたか。』
「いや、何も」
少年はあんぐりと空いた口が塞がらなかった。
少年はつい先程まで、母の言いつけで蔵を掃除中に一冊の本を見つけた。
それを開いてみると眩い光に包まれ気づけば、壮大な草原やメルヘンな森そして、禍々しい城。
さぁ、ここから少年の波瀾万丈な旅が幕を開け…
「無いからな、それと、それやめろ。説明口調だし、人の動きを一々口に出されて恥ずかしいんだよ。」
『まさか、存在を知られただけでなく。ここまで干渉できるとは、君は一体何者なんだ。」
少年は若干イラつきながら辺りを見渡したが先程から聞こえる美しい声の主はどこにも見当たらない。
「だから、それをやめろって。何が美しい声だよ、自分で言ってて恥ずかしく無いのかよ。」
『まったく恥ずかしく無いね。それに、英雄の記録をするのが俺っちの使命だ。英雄に俺っちが認知されてるなら、少しはかっこよく書きたいじゃん。』
少年は謎の声を遮ろうにもどこから発しているのか分からず、やり場の無い怒りを覚えるだけだった。
「だ〜か〜ら〜」
少年はまた、声を止めようと文句を言おうとしたが、言っても無駄と思ったのか途中で諦めたようにため息をついた。
「わかった、諦めるよ。でも、お前は一体誰なんだよ。」
『だから、さっきも説明しただろう。神とは意識を切り離された特別な存在だって。』
美しい声は自身満々に答えた。
少年は相変わらず呆れている。
「それが意味わかんないんだよ。大体、なんのためにこんな事してんだよ。」
『それは勿論、英雄の物語を記録するためだよ。」
「なんのために?誰かに命令されてんのか?」
『質問責めだな、まぁ、それは、ほら。あれだよ。
えーと…なんだっけ』
「覚えて無いんだな」
…
「おい、なんか言えよ」
…
「おい、ポンコツナレーション。どうした。」
少年は近くの村に向かって歩きはじめた。
「は、おい、これどーなってんだよ。体が、勝手に。」
さぁ、少年と美しい声との波瀾万丈な冒険の始まりだ!
美しい声は声高らかに宣言した。
ナレーションが冒険に干渉したら面白いだろうなぁ。