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愚痴大会の中、鴨志田だけが静かにしていた。
自分は疑われていないからだ。
こぼす愚痴もない。
みなの愚痴を聞きながら鴨志田はあの日のことを思い出していた。
あの日、鴨志田は下宿の近所で財布を拾った。
中には免許証があり住所が書かれていた。
――この近くだな。
鴨志田は警察に届けるより、直接持ち主に渡そうと考えた。
細い路地の一番奥にある古いアパート。
――ここだな。
外階段を上って二階に上がる。
呼び鈴を押したが、留守だった。
――社会人は仕事をしている時間だな。
鴨志田は警察に届けようと思い、階段を降りた。
するとそこに古明地がいたのだ。
「えっ、古明地さん。なんでここに」
「鴨志田君こそ、なんでここに」
「いや、財布を拾って、住所がここだったもんだから、届けようと思って」
「そうだったの」
「それで古明地さんはなんでここに」
「私、このアパートに住んでいるのよ」
「そうなの」
鴨志田がそう言うと、古明地はほほを赤らめた。
「やだ、鴨志田君に住んでいるところを知られちゃったわ。どうしましょう」
もじもじしている古明地を見て、鴨志田は「可愛い」と思った。
そしてそう思った自分に気づいた。
鴨志田の全身に熱いものが流れた。
鴨志田は階段下に無造作に置かれている金属バットが目に入った。
鴨志田はそれを手に取ると、振り上げた。
「えっ」
鴨志田は金属バットを古明地の頭に振り下ろした。
愚痴大会は終わらない。
みな同じ事ばかり何度も言っている。
それを見ながら鴨志田は思った。
幼なじみを差し置いて、俺を惑わすとんでもない女はもう死んだ。
そして俺は疑われることなく、俺の嫌いなサークルのメンバーが警察に目をつけられている。
ほんと、みんないい気味だな、と。
終




