出会い
茜が異界から帰ってきてから3日がたった。
あれから茜がどうしていたかと言うと、別に特筆することもなくいつも通りの日々を過ごしていた。いつも通り大学へ行き、授業を受け、数少ない友人と何気ないことを駄弁ったり、大学の課題を苦労してこなしたりして過ごしていた。
そんな日々が茜は好きだった。どこか退屈な平穏が好きな性格だった。
少し前に見た悪夢のことなんてもう記憶から消えかけていた。
「ねえ、隣座ってもいいかな?」
突然茜は声をかけられた。大学の食堂の日当たりの良いテラス席で、コンビニで買ったおにぎりを食べている最中のことだった。
「えっ?あっはいどうぞ」
「ありがとう」
円形のテーブルの向こう側、茜と対面になるように声の主は座った。20代くらいだろうか、烏の濡れ羽のような黒髪長髪の誰もが振り向くような美人の女性が茜の前に現れた。
突然現れた絶世の美女に茜は思わずおにぎりを食べる手を止めて、まじまじと見つめる。見れば見るほど女性の美しさが際立っていくように感じる。完璧に整った目鼻形も、スタイルも、綺麗な声も、黒を基調とした大人っぽいコーディネートも、椅子に座るその動作にも、女性の全てに茜は惹きつけられていた。
「私宮守時葉っていうの。あなたの名前は?」
宮守が呆けている茜に話しかける。
「あ、えっと、も、諸星茜でしゅっ!」
噛んだ。いきなり話しかけられて焦った茜は声がすさまじく裏返った上に噛んだ。恥ずかしさから顔を赤くする。
「ふふっ茜ちゃんね。そんなに顔真っ赤にしてしなくてもいいのに。恥ずかしがり屋なの?」
「べ、べてゅにそんにゃことにゃいでしゅけど!」
噛んだ。盛大に噛んだ。多分人生でもうないだろう嚙み方をした。茜の顔の赤さが天元突破して大変なことになる。そんな茜を見て宮守が思わず吹き出す。
「……ぷっ、あははははは!! 茜ちゃん面白いねー! そんな反応する子初めて見たよー! あははははは!!」
「……そんなに笑わないでください……」
「ふふっ、いやーごめんごめん茜ちゃんがあまりにも可愛い反応したからつい笑っちゃった。……ふふっ」
「…………」
まだ少し笑っている宮守を見て茜は恨めし気な視線を向ける。
茜は人見知りの類だ。初対面の人となると外面は人当たり良く接するが、内面では疑心暗鬼になるほど警戒して心を許さない。いつもなら今のようなやり取りがあったら二度と関わらないようにするだろう。それなのにこの時茜は初対面の宮守に対して何故か心を開きかけていた。
本人も自覚していない不思議な感情が茜に芽生えていたから。
「ねえ茜ちゃんこの後時間ある? 授業あるんだったらその後でもいいからさ。ちょっと付き合ってくれない?」
だから宮守のこの誘いに。茜の運命を決定的に変えるこの誘いに。
「……分かりました。じゃあこの後授業あるので3時半くらいになりますけど……どこで待ってますか?」
「ここで待ってるよ。授業終わったら絶対来てね!」
「……まぁ、行けたら行きます」
「いやそれこないやつじゃん!」
割とあっさり乗ってしまうのだった。
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