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婚約破棄?上等ね。裁判所で待ってるわ。

作者: 黒宮 まこと
掲載日:2023/02/02


「フィー。君との婚約を破棄させてもらおう。」



婚約、それは婚姻を前提とした契約。


精霊の加護が定着し始めた幼子の頃から、家同士の結びつきのために婚約を結ばせることが通例ではあったものの、婚約期間が長すぎたために破棄や白紙などの御家騒動が連発し、没落した家が多いことから近年は長期的な婚約は少なくなりました。


しかし、我が家は家柄や格式などを考慮し、幼い頃から婚約させられているのです。もちろん、個人的な感情で破棄などできはしない。



「なぜでしょうか。」


「真に愛するものが出来たからだ。」



繰り返すようですが、個人的な感情で破棄などできはしないのです。



「真に愛する者、ですか...。エスコートしてきた隣にいらっしゃる方のことですの?」



今は王城での社交シーズン最初のパーティの真っ最中。


婚約者がドタキャンをしてくれたため、一人で行く気だったのですが、両親がサボる気でいたお兄様に私のエスコートを頼み、入城や挨拶等々の義務的なものを果たしたのでお兄様を解放し、壁の花となりワインに鼓をうっていたところでした。


そんな時に婚約破棄宣言。

この方はこんなに頭が悪かったかしら。

ワインの飲み比べをして楽しんでいたというのに。

注目の的になってしまいましたわ。



「エスコートの件はすまない。パイラのエスコート相手が急に来れなくなってな。一人で入城なんかさせられないだろ?」



パイラ。敬称なしで呼び合う相手なんですね。

知ってましたが。



「あら?私はお兄様がいなければ一人で入城するところでしたわ。」


「恐れながら、フィー様。セドは悪くありません。私が、私がいけないのです...」



お隣にいらっしゃる方は愛称を呼んでるのですね。仲のよろしい事で。


それよりマナーはどこに捨ててきたのでしょう?

初対面の私を愛称で呼ぶ。許しもえないまま高位貴族に話しかけ、あまつさえ会話を遮る。そして泣く。

不敬のオンパレードですね。


愛称を許していないと私が話しかけてしまえば、パイラ?様に許しを与えたことになりますし、ワインでも飲んで聞かなかったことにしましょう。

ワインが美味しい。これは、辺境伯領のワインかしら。



「パイラ...。」



勇気を振り絞って発言して泣き出してしまったパイラ?様の肩をそっと抱き、なぐさめる我が婚約者。


おふたりで少し前に流行った純愛物語でも演じてらっしゃるのでしょうか。さしずめ、私は二人の恋を邪魔する悪役令嬢?


あー、また、なんてめんどうな。



よくよくみれば下位貴族では買えないドレスとジュエリーを身にまとっていますね。さりげなーく、我が婚約者の色も。



「どなたか私に飲み物をくださる?」



ちょっと古ぼけた純愛物語の観客と化した来場者に追加の飲み物を依頼。こんなの飲んでなきゃやってられないわ。



「フィー。君って人は...」


「いいのです、セド。私が...私がいけないのですから」



このワインを飲み終える前に追加を持ってきてくれないかしら。間が持たない。演者になりたくないわ。



「アルセーヌ嬢、待たせてしまったかな?ご希望の飲み物だといいんだけど。」


「...ワトキンス様。わざわざありがとうございます。御領地のワインですか?」



なんと辺境伯家の長男ジェームズ・ワトキンス様がワインを持ってきてくれたのです。


ようこそ、謎な物語の世界へ。



「アルセーヌ嬢がワイン好きと聞いてね。ぜひ、我が領のワインも飲んでもらおうと思って持ってきたんだけど。セドリック、邪魔だったかな。」


「ジェームズ...。」



滅多に社交界へ顔を出さないワトキンス様ですが、私と我が婚約者の幼なじみの1人でもあるのです。


幼い頃は我が婚約者とワトキンス様、あと2名の幼なじみ、王子、王女と遊んだものです。懐かしいなー。



「えっと...セド?この方は?」


「腐れ縁のジェームズ。パイラは挨拶しなくて大丈夫。」



突然のイケメンの登場で涙が止まったらしいパイラ?様。我が婚約者とは違う系統のイケメンだもの。困惑している演技をしながらさりげなーく声をかけてもらおうとしているわ。


マナー知ってるじゃない。



「とりあえず赤と白を持ってきたんだけど、アルセーヌ嬢はどちらがお好きですか?」


「...迷いますわ。ワトキンス様のオススメはどちらですの?」


「それは、どっちもかなー。我が領地のワインは最高だからね。」



声をかけてもらいたがっているパイラ?様を居ないものとして扱ってますわね。このまま無視し続けたらどうな



「ジェームズ様!私、パイラ・グランって言います!セドの腐れ縁なら私とも仲良くしてくださいますよね!」



わぉ。またマナー違反連発。

流石のワトキンス様も驚いてますね。

それに、ワインを受け取りそびれてしまいましたわ。



「パイラ、緊張してるのは分かるけど、マナーはきちんとしようね。」


「え!あ...ごめんなさい、セド。間違ってた?これからもっとセドに相応しくなれるようマナーを勉強する!だから、許して。」



可愛らしい容姿を存分に使って反省してる風を装っているパイラ様。この方のメンタル強い。



「あぁ。これから一緒にがんばろう。

...と、言うことでフィー。婚約破棄させてもらう。ここにいるジェームズを含めた皆が証人だ。」



1度ならず2度も...婚約破棄だと口に出すとは。





「婚約破棄?上等ね。裁判所で待ってるわ。」



徹底的に潰してあげる。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



翌日の午後。



「皆様集まられたようなので開廷致します。今回、進行、法廷長を務めますストレードです。よろしくお願い致します。では、王様。開廷のお言葉をお願い致します。」



法廷長(事務方のトップと言った方がわかりやすいでしょうか)の言葉で開廷いたしました。



今回、このしょうもない裁判に集められたのは、


原告:アルセーヌ公爵一家


被告:アンダーソン侯爵家当主、嫡男セドリック


裁判長を兼ねている王様。裁判官ともなる、我が家を除く2つの公爵家当主、アンダーソン侯爵家を除く全ての侯爵家当主5人、裁判所員の専門官(専門の方々)3人、あとはそれぞれの補佐官。


まぁ、要するにこの国の重要な貴族の代表ほぼ全員集めた感じですね。



「急なことで申し訳ないが、厳正な判断を頼む。」



昨日の夜会で起きたことを次の日の午後に裁くなんて異例中の異例ですから。専門官の顔色も悪いようですね。



「では、罪状を報告いたします。アルセーヌ公爵家、以降原告と呼ばせていただきます。原告から報告されたアンダーソン侯爵家嫡男セドリックの罪状です。」



「まて!!婚約破棄についてだろう?罪状とはなんだ!!」



状況がよく分かっていらっしゃらないアンダーソン侯爵家嫡男様が吠えてらっしゃいます。



「まぁまぁ、落ち着けセドリック。開廷したばっかじゃないか。吠えるには早すぎるぞ。」


「な...」


「法廷長殿、進めてくれ」



お兄様がからかっただけで言葉に詰まるなんてこの先どうなるのでしょう。



「はい。では、罪状の重いものから順に報告させて頂きます。


最も重いものは、王継等侮辱罪です。」



「おうけいとうぶじょく、ざい?...お義父様は継承放棄していただろう?」



アンダーソン侯爵家嫡男様でもアルセーヌ公爵当主が王位継承権を放棄していたことを知っていたようです。就学前の子どもを除いた貴族には周知のことなので、知っていて当たり前なのですが。


「我が娘に婚約破棄を突きつけた君が私をお義父様と呼ぶのはおかしな話だね。私が君の味方をすると思っているのかい?」


「......。」


お父様は相変わらずの調子ですが。



「もしかしてセドリック様、誰に何を言ったら王継侮辱罪に当たるかわかっていませんの?」



アンダーソン侯爵家嫡男様なら有り得そうで怖いです。



「それくらい、知っている。」


「なら、なぜ私を侮辱したのです?」


「は?君は継承権を持っていないだろ?それに、君を侮辱など」



では、教えてさしあげようではありませんか。



「あんな可愛げのない女、爵位が高いから婚約してやってるだけだ。」


「な...」


「才媛だと世間ではもてはやされてるが、実は性格が悪いんだよ。俺のやることなすこと文句言ってくるし、何様だってんだ。体は良さそうだけどな。」


「さ、酒の席での冗談じゃないか。真に受けるなよフィー。」



段々顔が青くなっていって楽しいですね。

まだ序盤ですのに。



「他にも沢山ありますが、あなたの名誉のためにやめておきますわ。まぁ、最大の侮辱は昨日の夜会での婚約破棄宣言ですけど。」



面と向かって言われたものは婚約破棄宣言くらいなのですけど、周りにいる優しい方々、精霊が良かれと思って教えてくれるんですよね。あなたの婚約者、こんなこと言ってたわよ。とか最近酒場のウエイターに入れあげてるわよとか。



「昨日は事実を伝えただけだろ?なぜ侮辱になるんだ?」



あ、この人ゴリゴリの脳筋でしたわ。

公式な場で婚約破棄=破棄された側は何かしらヤバい=関わりたくない=新たな婚約が困難

という公式をこの方ご存知ないみたいね。


他の方々は唖然としてらっしゃいますわよ。



「あとでアンダーソン侯爵様にお聞きになってくださいな。それよりも大事なのは、私が王位継承権を持っていたことお忘れだったことですわ。」



王弟であるお父様は王位継承権の放棄をなさってますが、万が一ということもあり、私たち兄妹は王位継承権を保持したままになっているのです。継承順位も中くらいですし、継承する気もありませんが。



「フィ...フィーは何も言わなかっただろ!!」


「言うも何も、面と向かって侮辱されたことはあまりありませんでしたから。それに、私が冗談と捉えても他の方々はどう思っていらしたのか。誰か窘めてくれた方がいらっしゃいませんでした?」


「うっ...」



あらあら、言葉に詰まるとは窘められたことがあったみたいですね。隣にいらっしゃるアンダーソン侯爵も開廷前からずっと青ざめて平伏してますし、侯爵家というより嫡男様だけの問題のようですけど。



「法廷長殿、この罪の罰は程度に関わらず爵位剥奪だったと思うのですが。」


「はい、王継等侮辱罪は裁判で有罪となれば爵位剥奪です。今回の場合は多数の罪が報告されてますので、一つ一つ罪を決定していきたいと思っております。


皆様、こちらの王継等侮辱罪は本人が発言を認めていますし、有罪でよろしいでしょうか?」



嫡男様がちゃちゃを入れるせいで長引きそうと感じた法廷長殿は私の質問を契機に進行していく。


この方、できる...。



「歴史ある侯爵家が1つ潰れるのは惜しいが、アルセーヌ公爵令嬢を侮辱したのならしかたないか」


「アンダーソン侯爵がいなくなるのはいろんな面で辛いが、王継を侮辱したのなら...」



有罪の方向に固まりつつありますね。

でも、私が罰したいのはただ1人。



「皆様、アンダーソン侯爵様は度々、嫡男様を窘めていらっしゃいました。また、侯爵様の存在はこの国に欠かせないと思っております。


ですので、嫡男様だけ爵位を剥奪し、平民として奉仕してもらうのはいかがでしょう?」



アンダーソン侯爵様は優しい良い方なのです。奥様とほかのお子様もまた同様に。嫡男様だけが異質なのです。



「...侮辱を受けたアルセーヌ公爵令嬢様が減免を望むのであれば、侯爵家ではなく嫡男個人への罪として扱うことも可能なのですが...王様と他の皆様はどうお考えでしょうか?」


「フィオナがそう望むのであれば、儂はそれでも良い。」


「アンダーソン侯爵様がいてくださるなら、万々歳なのですが...」


「王様とアルセーヌ公爵令嬢が良いと言うなら」



皆様、そんなに怖いのでしょうか。

もう少し困惑してもよろしいのに。



「では、アンダーソン侯爵家嫡男セドリックは王継等侮辱罪で有罪。爵位剥奪の上、平民として奉仕を命じます。」



あっさりと侯爵家から個人の罪へシフト出来ました。




「では続いて、爵位権の濫用です。こちらは原告だけではなく、王城、騎士団、城下商店等からも報告を受けております。」



あら。そんなに沢山から報告があがっていたんですね。私の元にもいくつか苦情が来ていたので意外ではありませんが。



「...乱用なんてしてない。何かの間違えだ。」



そして、まだ状況が分かっていない元嫡男様のうきん

報告書を読んでいる方々は頭を抱えていますよ。



「セドリック、君はフィオナの婚約者である前に侯爵家の人間だろ?私にも苦情や報告が届いているぞ。何度か公爵家令嬢の婚約者という立場を使って無理を敷いただろ。」



宰相補佐として働いているお兄様の元には色んな情報が集まりますし、時には判断を下すこともありますからね。王城、騎士団からの報告ならなおさら。



「無理を敷いた覚えはないが、フィーの婚約者としての対応を求めただけだ。」



あ、ダメだ。この人、公爵令嬢の婚約者=公爵家と同等の扱いと思ってるわ。私が嫁入りする予定でしたのに。



「お前は何を言ってるんだ?」



呆れすぎてお兄様の猫が逃げてしまいましたわ。眉間に凄いシワが...。戻ってきて、猫さん。



「お兄様、侯爵家元嫡男様のうきんは私(王族かつ公爵家)と一緒であれば優遇されたり、許可なく入れる場所には、私がいなくても同等の対応をされて当たり前だと思ってらっしゃるようですわ。」


「...いや、言いたいことはわかっている。だが、こいつそんなに馬鹿のうきんだったか?」



だったようですよ。と全力で同意したいところなのですが、私もどこまで本気なのか分からないのです。



「念の為、裁判前に王族・公爵家と侯爵家の優遇、立ち入り禁止区域などの違いをテストを行ったのですが間違えはありませんでした。」



法廷長殿がどうやってテストをさせたのかは気になりますが、間違ってないということはやはり



「公爵家令嬢の婚約者は公爵家と同等の爵位権を持つと考えてましたの?」


「...違うの、か?」



今頃になって困惑してらっしゃいますが、違うに決まっています。婚約者でも立場は侯爵家令息ですから。



「...お前は...今まで何を聞いて、何をしてきたんだ。私たちの教育はなんだったんだ...。フィオナ嬢、アルセーヌ公爵、皆様、本当に申し訳ない。」


「ち、父上...」



アンダーソン侯爵は消え入りそうな声で謝罪を繰り返し、壊れた人形のようになりかけています。



「爵位も...返上し、死してお詫びを...」



これは異常事態ですね。



「...皆様、アンダーソン侯爵様は体調が優れなそうなので退廷させてもよろしいでしょうか?


元嫡男様は平民落ちが確定致しましたし、他にアンダーソン侯爵様に関係することは婚姻契約に関わることでしょう?それはお父様と侯爵様が2人でお決めになればよろしいこと。


よろしいですよね?」



アンダーソン侯爵家の他のお子様はとても勤勉で優しいのです。ここで侯爵様が壊れてしまっては元嫡男様のうきん1人の罪にする意味が潰えてしまいます。



「...元嫡男と違って侯爵にはまだまだ働いでらわないといけないからな、退廷を許そう。皆も良いな。」



皆様も王様と同意見だったようで直ぐさま退廷が許されましたが、アンダーソン侯爵は立ち上がることもままならないようなので医務室へと運ばれていきました。


心配ですが、しばらく寝ていただきカウンセリングを受けていただきましょう。今は元嫡男様のうきんを裁くのが先です。



「えー、こちらの爵位権の乱用の罰ですが、本来なら爵位の降格、再教育となります。今回は平民落ちが決まっているため、乱用が不可能。また、平民に高位貴族教育が必要ないため再教育も不要となります。


どういたしましょう?」



本当にどうしましょうか。

もう奴隷落ちくらい...



「しばらく、魔塔と精霊の実験道具おもちゃとして奉仕してもらうのはいかがでしょう?


フィオと精霊様方ならもとに戻せるでしょ?」



お母様...

今まで眠そうに傍観していただけでしたのに。



「程度によりますけど、戻せると思いますわ。」


「では、この罪の代償としていかが?」



1番えぐいことをお考えになっていたとは...



「ぜひ!最高の人材ざいりょうです!」


[わーい、おもちゃがふえたー!]


[フィオナにわるいことしたから、じごくをみせてやろー!]


[さんせー!]


[なにしよーか?]


[なにがいいかな?]


[[[たのしみー!]]]



決まった訳ではありませんのに、魔法伯と様子を伺っていた精霊達が勝手に大盛り上がりしてます。


精霊の声が聞こえているのは一部の方々なのですが、姿はほとんどの方が見えているので、おもちゃにできることを喜んでいる様子に若干引いていらっしゃいます。


これはもう決定する他ないですね。



「えー、爵位権の乱用の罪に関しては魔塔と精霊様方の実験道具として奉仕ということでよろしいでしょうか?」


[[いーよー!]]


「ぜひに。」



精霊達の全力の頷きと魔法伯の同意、若干引き気味の人間の頷きによって可決されました。



「期間はどうしましょうか?」


[しぬまでー]


[ぼくたちのきがすむまでー]


[しんでもー]


[えいえんはー]



精霊達は酷いことを羅列してますが、それはやりすぎでしょう。ただ、持ってもいない爵位権を乱用しただけですのに。



「......アルセーヌ公爵令嬢に一任しては?」



流石に精霊達の言っている期間ではむごすぎると感じた魔法伯が気を使って私に決定権をぶん投げてきました。


人間と精霊では感覚が違いますから。

私にぶん投げられても困りますが...



「では、1年くらいでいかがでしょうか?」



元婚約者ですし、長期間苦しんで憎まれたい訳では無いので。二度と姿は見たくないですが。



[えー]


[ふぃおながそういうなら...]


[もっとあそびたいけど、しかたない...]



不服そうではありますが、精霊達は渋々納得してくれたようなのですが



「短くないか?」


「そうだな、もっと長くてもいいだろう。」


「そうよね、長くてもいいと思うわ。」



アルセーヌ公爵家、延長を希望。



「では、どれくらいを希望なさいますか?」


「10年」


「20年だ。」


「婚約期間の10年+罰の期間の5年で、15年はどうかしら?」



お兄様、続いてお父様とお母様の希望年数が発表されましたが、頭に来すぎて少し理性を失ってるみたいですね。普段は凄くまともな方々なのですよ?



「お父様、お母様、お兄様、これは爵位権の乱用の罰ですよ?好きに罰していい期間ではありません。それに、このままだともとに戻す際には私も立ち会うことになりそうですね。」


侮辱されたことに対する罪は決まってますから。追加で罪を足すなんてナンセンスですし、今の盛り上がり方を考えますと精霊達がちゃんと戻してくれるとは限りませんのでお目付け役は必要です。


「なら、1年厳守だ。」


「そうね。」


「1年でいいでしょう。」



納得いただけて何よりですわ。



「アンダーソン侯爵家元嫡男セドリックは爵位権の乱用で有罪。魔塔と精霊様方の実験道具として1年の奉仕を命じます。」



精霊達の喜びの声と共にほっとした声が聞こえてきましたが、何やら皆様最初に比べてゲッソリしてますわね。


「えー、ここで一度休憩を挟みたいと思います。また、追加の証人兼罪人の召喚もありますので暫しお休みください。再開時間は──」


まだまだ長丁場になるのか、法廷長が休廷を宣言してくださいました。まぁ、紅茶も飲みたい気分ですし、侯爵家元嫡男様のうきんも戦意喪失して灰になりかけていますから丁度いいですわ。


ただ、侯爵家元嫡男様のうきんにはこれ以上ない罪が課せられましたし私はもう満足なのですが、アルセーヌ公爵家はまだまだ殺る気が満ちているみたいなので、この休憩で落ち着くことを願います。


私ですか?お兄様方の殺る気を削ぐのを手伝う気はありません。あくまで願うだけです。




「証人兼罪人も揃いましたので再開いたします。今までに決まったアンダーソン侯爵家元嫡男セドリックの罪状とその罪ですが...


王継等侮辱罪のため爵位剥奪の上、平民として奉仕


爵位権の乱用のため魔塔と精霊様方の実験道具として1年の奉仕


が決まっております。


ただ、これからの裁判ではアンダーソン侯爵家元嫡男セドリックは被害者的な要素もあるため、厳正な判断をお願いいたします。


では、罪人を証言台へ」



「ちょ、なに?掴まないでってば」



暴れながらパイラ・グラン、入廷。

予想通りですわね。



「なぜ、パイラが?罪人?」



若干1名には予想外だったみたいですが。

まだ、解けていらっしゃらない様子。



「罪人、落ち着きなさい。法廷妨害罪も追加されたいですか?」



「ふん!私は罪人じゃないわ!」



連行してきた騎士たちの腕を荒々しく振りほどき腕を組むパイラ。そんな姿を愛しい人に見せていいものかしら。



「...パイラ?」



「では、まず男爵家令嬢パイラ・グランの罪から報告させていただきます。


男爵家令嬢パイラ・グランの罪状は


禁止魔法の使用、不法侵入、高位貴族への不敬、横領示唆、窃盗の5つとなります。魔法伯により禁止魔法、魅了の使用が確認されましたので即刻捕縛いたしました。他にも余罪がありそうとの事で、現在騎士団と法廷庁が調査中です。」


「なっ...」


侯爵家元嫡男様のうきんも絶句するほどの罪の多さ。


「なお、魅了魔法の対象者はセドリック。

接触が多かったことから魅了が解けるには時間がかかる模様です。」




「侯爵家元嫡男は高位貴族にも関わらず、魔力を持たない特異体質と聞いたことが...」


「やはり、特異体質だったのか...」


「剣の腕は国随一だったはずだが...」



侯爵家の方々は好きにひそひそ話始めましたが、魔力を持たない特異体質の脳筋でも精霊の加護がえぐいほどかかっているのが分からない様子。


後で脳筋に加護を与えている精霊に報復されても知りませんよ。


「あいつら脳筋に付きまとってる精霊知らないのな。おそろし。」


高位精霊が自分の姿を下位精霊に変えられることを知っているのはほんの極一部なため、脳筋に付き纏っている精霊を侮っている方々がそんなことを言っているのでしょう。


本人のうきんにも精霊が見えてないですし。

本当の姿を知っている人たちも許可なく姿をバラして反感を買うのも嫌なので黙っていますし。



「あいつのまわりにいる精霊はなんで魅了を跳ね除けなかったんだ?」


お兄様、それ気になりますよね。


私も脳筋の異変に気づいた時、精霊達に聞いてみたんです。


そしたらなんと、


[せどりっくのちからでなんとかなるー]


[はねのけられてこそ、ぼくらのせどりっく]


[きんにくはうらぎらない]


などと言っており、要約すると



「セドリックの筋肉、武力で対抗出来る...。セドリックはつよいんだぞーと」


まわりの精霊も脳筋だったのです。


救えない...


そして、その脳筋精霊達を放置...いえ、尊重した結果、まんまと魅了にかかってしまったのです。脳筋精霊諸共。


解くこともできなくはないのですが、彼らの重い愛を見ていると、砂糖を吐きそうで近づきたくなかったのです。


私にその愛が向くはずだったと考えると、魅了で制御ができなかったからと言っても、鳥肌が立ちましたもの。



「お兄様、あの人の周りにいる精霊は皆、脳筋です。」


「まじか。救われねぇな。」



今回、ヒソヒソした何人に精霊からの報復がいくのでしょうか。まぁ、私のあずかり知らぬことですが。



「魅了で罪を犯したのなら、罪が重すぎるのでは?」


「いや、魅了は好意を持っていない相手にはかからないと聞いたことが...」



「魔法伯爵様、魅了魔法の解説をしていただいてもよろしいですか?」


禁止されていため、魅了魔法の詳しいことは知らない方が多いのです。高位貴族の方々はもしものために学んではいるのですが、自分は魅了にかからないと思い込んでいる方もいらっしゃるので。えぇ。誰とは言いませんが。


「えー、簡単に。魅了魔法は時より適正者が現れます。適性がないと使えない魔法の為、魔法検査時に適性がわかった場合、即刻魅了を打ち消す魔道装飾具が渡されます。そのため、無自覚に使用することなどないと思われてたんですが...パイラ・グラン男爵令嬢はその魔法検査を受けてなかったようなんです。最近は威力が増幅する装飾品を好んでつけていたようで魅了魔法の威力がかなり強くなっていました。


また、加護精霊により魅了を跳ね除けられるものなんですが、運の悪いことにその加護精霊が本人に任せるというまさかの行動に出たため思いっきりかかってしまったと。


本人の好意がないとかからないというのは迷信に近いのですが、加護精霊が跳ね除けないことが好意ととられているようで。


今回の場合は、対象者が幼い頃から婚約していたため、異性から直接的な好意を受けたことが少なく、揺らいだ隙間に強い魅了が入り込んだとみられますな。」


まさかの連続で運が悪かったとしか言いようのない状況。


揺らいだ代償が平民落ちの1年間魔塔のおもちゃ...

重い。


まぁ、本人は常々公爵家の公務が向いていないと言ってましたし、そのうち持ち前の武力で男爵か子爵ぐらいの功績をあげそうですから。平民落ちは脳筋へのいい薬になるはずですわ。



「魅了の効果については、分かっているものが少ないのですが、強力なものになると洗脳が出来るとされています。今回の場合は免疫が無さすぎたため言うがまま暴走したという感じですかな。


ただ、グラン男爵が娘であるパイラ嬢に魔法検査を受けさせていなかったことが事を大きくしたことに変わりはなく。今後、爵位を問わず魔法検査の徹底をはかっていかなくてはなりませんな。


それから、己の能力に薄々気づいていたにも関わらず、高位貴族に近づくために利用し、本当に落としてしまったパイラ嬢はある意味、格好の研究材料になるかと。ぜひ、魔塔に欲しいものです。」


いい玩具を見つけたような目でパイラを見つめる魔法伯。色んな意味で危ないですわ。


「えー、魔法伯爵様、ご解説ありがとうございました。

魅了魔パイラ・グラン男爵令嬢の生い立ちについては、私の方から報告させていただきます。


まずはグラン男爵家の説明から...」


長くなりそうなので要約いたしますね。



グラン男爵家はパイラの2代前、祖父が冒険者として武功を挙げまして、叙爵。3代限りの男爵家となりました。


パイラの父である2代目は冒険者として戦うことと妻のことしか興味が無い人間で、妻がパイラの弟となる長男を出産後、体調を崩し1年闘病し死去した後は狂戦士バーサーカーのように各地を転々としていました。


そのあいだ、5歳のパイラは産まれたばかりの弟の育児と家事に奔走し、唯一の執事であるジョシュアと男爵家を守ってきたそうです。


2代目は未だに各地を転々としていますが、爵位持ちの義務である教育を受けなくてはならなくなったパイラは育児をジョシュアに任せ、教育と家事をこなしながら、最低ラインで卒業。


そして、現在は父親からの送金が少額になってきたため、祖父が細々と経営していた酒場でウエイターとして働きながら、金持ちそうな人を捕まえようとしていたと。


ただ、酒場には高貴そうなお金を持っている人達はなかなかやって来ず、平民の冒険者が主な客層だったそう。絡まれることも多かったようですが、(魅了に軽くかかっていたのかも知れませんね。)かなり利益は上げていたそう。


そんななか、所属している憲兵隊の部下に飲もうと連れてこられた身なりの整った侯爵家嫡男様セドリックに客に絡まれてるとこを助けられ一目惚れ。いいなと思っていたところでセドリックも通うようになり、仲が深まっていき、今に至ると。



えっと...

これは両思いだったのでは?


魅了の効果があったとはいえ、小動物やか弱いものは守りたい主義の侯爵家元嫡男様のうきん


助けてくれた男性に一目惚れして自分の魅力(魅了)を使いアタックしたら婚約者がいただけのウエイター。



...あれ?私が悪役?



いやいやいや、罪を犯させた時点でアウトですわよね。

めちゃくちゃ高価なものとか買わせてたみたいですし。


婚約者がいるのにほかの女作ったりしちゃダメですもんね。契約違反ですもの。


自分の立場を間違えていた侯爵家元嫡男様のうきんの巻き添えとも言えなくないですが...


魅了を振りまくのもマズイ。

立場を弁えずにいたのもマズイ。


教育は最低ラインであっても終わっている訳ですし...




「男爵家は取り潰し。


致し方ない罪もありますが、禁止魔法の使用、不法侵入、高位貴族への不敬、横領示唆、窃盗により魔塔での生涯軟禁がよろしいかと。


皆様、いかがでしょうか?」


皆様、判決に戸惑っているのか法廷が少しザワついています。


これでいいのでしょうか?



「禁止魔法の使用だけでも、魔塔での軟禁に値するからね。軽くでも自覚してたなら罪として償わなきゃ。


それに、最低ラインでも教育終わってるわけだし、高位貴族への不敬だったり、横領示唆、窃盗がどんな罪の重さなのかもわかってるはず。


魅了魔法の怖さだけでなく、罪の重さを皆に分からせるためにもこの位の罰は必要じゃないかなー」



さらっと私の迷いを吹き飛ばす発言をしたワトキンス様。そうね、この位の罰でないと周りへの示しもつかないわ。


私を見ながら発言しなくても良かった気がするのですが...


え?ワトキンス様?なぜここに?



「皆様の意思が固まったようですので改めて、


パイラ・グラン男爵令嬢は禁止魔法の使用、不法侵入、高位貴族への不敬、横領示唆、窃盗の5つの罪で有罪。


そのため、グラン男爵家は取り潰し。

またパイラに関しては魔塔に生涯軟禁ということでよろしいでしょうか?」


全員が同意し、今回の法廷は無事?閉廷となりました。



これで、私の身辺がスッキリいたしましたわ。

痛くもない胸が痛み、傷心ということでしばらく縁談も断れて、趣味に没頭できそうですね。



「フィー、ジェームズで困ったことがあればいつでも頼ってくれ。しばくから。」


「お兄様、何を言っているのですか?」


ワトキンス様で困ったことなど起きるはずがないですよ。


お兄様の目線の先にはこちらに向かって笑顔で歩いてくるワトキンス様。いつもより嬉しそうなのは所属している魔塔での実験体が増えたからでしょうか。



「アルセーヌ嬢、これからは表立って君を口説きに行くからね。よろしく」


「...は?」



この裁判を機に、魔法検査の徹底が図られ、国力が増幅したそうです。




フィオナとジェームズの恋模様は、また別の機会にでも。


閲覧していただきありがとうございました!

初完成作品となりました。


筆の進みが遅かったにもかかわらず、

ブックマークして追いかけて頂いた方々には

感謝しかありません。( ߹꒳߹ )


よろしければ、評価や感想などを頂けると

とても嬉しいです。


本当にありがとうございました。

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