第372話 ごめんって。
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
かくして暗黒騎士アルテマと邪竜ナーガの壮絶(?)な闘いは一旦の幕を閉じた。
本家開門揖盗によってオリビィの町と繋がり、人の行き来が可能になった蹄沢集落は異世界人との交流拠点として密かに開発がなされ、見た目はのどかな限界集落のままだったが、その中身は知る人ぞ知る『異世界人の住む村』として世界中から注目された。
元一宅にはこれまでどおりアルテマ一家が住み。その隣にはジルが帝国からの大使として移転してきてくれた。
同じく聖王国の大使として向かいに引っ越してきたクロードとともに、日本国と異世界ラゼルハイジャンの交流について日々活動している。
「アルテマよ。栄えある聖王国の大使にまで上りつめたこの俺様、クロード・ハンネマンが、ちっぽけな独立国のなんちゃって将軍に成り下がった貴様ごときの向かいに住んでやっているのだ、精々光栄に思ってもらおうか?」
「だったら帰れよ。ちっぽけな国でもオリビィと蹄沢集落は私の管轄下にあるんだからな。いつだって追い出してやってもいいんだぞ。 ……あ、キノコ発見」
もとに戻った鉄の結束荘。
そこでいつものメンバーは相変わらずレトロゲームに興じていた。
真子はアルテマに次いでジルの二番弟子となり、魔法の勉強を頑張っている。
「そうそう。べつに聖王国がなくたって帝国だけでいいんだよ。そもそも難しい話は全部ジルさんがやってるし。チヤホヤされてるだけの変態役立たずはさっさと異世界に帰りなさいな」
「なんだとエロゲ戦士!! 貴様こそベタで稚拙な恋愛漫画なんぞで異世界じゃそうとういい思いしているらしいじゃないか!? いいんだぞ? こっちの本物を俺様が翻訳してバラ撒いてやっても!! そうなったら貴様のクソ素人漫画など誰も見向きもしなくなるだろうなぁっ!!!!」
「なんですってっ!! そんなことしたらまた魔素回収用付属空中線の餌食にしてやるわよっ!!」
アニオタ秘宝館の一件以来、異世界の風紀は一時格段に乱れてしまった。
革命の後、落ち着きを取り戻しつつあるが、いまだマニアの炎は燻り続け、破壊神(風紀)の復活を望む声は後を絶たない。
事態を深刻に受け止めた異世界連合は日本国との話し合いのすえ、そーゆーものには厳しい検閲をかけ流入を制限している(当たり前)
集落にはいまだ秘密を探りにくる現世側の侵入者がいるが、帝国と聖王国が共同で組織した自警団により、ことごとくを撃退、捕縛している。
「今日も異常はありませんでしたにゃん――――あ、でした」
「…………まだその口調治っていないのか?」
「も……申し訳ありませんでしたお兄様っ!? あいや、お姉様っ!? じゃなくてアルテマ様っ!! あ、いや、そうじゃなくてあわわわわわわっ!! 申し訳ありません申し訳ありませんにゃんっ!! あっ!!」
「…………………………」
団長にはルナが来てくれたが、アニオタに仕込まれた口調がまだ治っていなく、ときどき猫化して慌てふためいている。
飲兵衛は異世界に行ったまま帰れないでいる。
西洋医学の効果が異世界中に知れ渡り、それがゆえに彼を誘拐しようとするスパイが急増。身の危険を察した帝国・聖王国連合が身を保護してしまったからである。
いまは中立魔法学院とやらに招かれて、医学の講師などをやらされているらしい。
「……調子に乗って診療所なんて開くからだよ」
「まぁまぁそんなこと言わないのモジョ。治るとわかっている病気や怪我を見たらそりゃほっとけないでしょ?」
「本当は向こうの酒に釣られただけじゃないのか?」
「う~~……ま、まぁ……否定はできないよね……ははは……」
占いさんは集落に戻って来てくれた。
向こうの魔法には興味はあったが、やはり慣れ親しんだ土地と畑は捨てられなかったそう。
「お~~~~い、大根持ってきてやったぞ。食うだろうお前たち?」
「わ~~~~い、ありがとう占いさん、食べる食べる~~~~!!」
「……しかしお前ら、いつまでこの校舎に住み着くつもりじゃ? 本を売って異世界の金を儲けとるんじゃろう? モジョにしても……あのなんとか言うモンの使用料で寝てても金が入ってきとるそうじゃないか?」
「電脳開門揖盗な。そうだな、カイギネス皇帝からなんか勝手に送られてくるんだよ」
「離れるわけないでしょ? だってここにいたから私たちアルテマちゃんと出会えたんだし、異世界にも行けたんだし、景色は綺麗だし、ご飯は美味しいし、のどかだし、ダラダラしてても怒られないし」
「本音は後半だね」
「あ、ヨウツベさんおかえりっ!!」
「やあただいま」
ヨウツベはひとりナーガ(アニオタ)の行方を追っていた。
メンバーの全員は『もうほっとけよ』と冷ややかな対応だったが、彼だけは見捨てないでいた。
「あれでも僕の親友だからね。……あいつがいてくれたから僕の心は楽になれたんだよ。そりゃ周りからは誤解されがちだけど、彼ほど人生楽しんでいる人はいないんじゃないかな? ナーガが惹かれたのも僕だけは理解できるんだ」
「うん、それ病気だから」
「……綺麗にまとめようとしているが普通に犯罪者だからなアイツ」
「ナーガから助けるつもりだろうが、むしろ洗脳されているのはナーガの方だからな? 私はむしろそっちに同情している」
「は……はははは。あ~~~~それでね、一応……アニオタの居場所、突き止めてきたんだよ」
そうしてヨウツベはスマホを操作し、とあるサイトを開いて見せた。
そこには『ナーガ聖教』とタイトルが書かれ、いろんな世代の男女が天使と悪魔の羽を生やしてわちゃわちゃしているページが表示された。
見たアルテマたちは説明されずともすべてを悟る。
『生きる喜び、人は快楽と堕落が全て』
『努力など巡り巡って己の首を絞めるだけ』
『人生は一度きり、やりたいことやろう』
『モラル? なにそれおいしいの??』
『年齢制限(笑)』
などと、らしい標語がズラリと並び、教祖として『斎藤 順』(アニオタの本名)と胡座をかいて宙に浮かぶヤツの全身画像が掲載されていた。
「……最近立ち上がった新興カルト宗教らしいんだけど、一部界隈で凄い人気らしくてね。……なんでも入会特典として好きな形態の悪魔女子とオママゴトを――――」
「はぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
おおきなため息。
アルテマは物干し竿(部屋干し用)に使っていた魔剣を手に取ると、
「………そこ、どこ?」
「え? えぇ~~~~っと……インドの……」
「あいつめ……とうとう日本を飛び出して、世界を破壊(風紀)するつもりのようだな……」
「行くのアルテマちゃん?」
「…………ああ……正直もう関わりたくないが、このままでは私たちの――蹄沢の威信に関わる。オリビィの町だってようやく風紀を取り戻しつつあるんだ。やつの存在はこれまでの苦労をまた台無しにしかねない。代表者として、今度こそ決着をつけてやる……」
「わ~~~~い私も行く~~~~~~~~!!」
「インドか……カードゲームの本場だからな、私もついていこう」
「お前たちがどうしてもと言うのなら、俺様も――――」
恩着せがましく髪を掻き上げるクロードを無視してアルテマは立ち上がった。
もはや悪いのは日本なのかナーガなのか、ともかくアニオタという恥部の存在だけは抹消せねばならない。
そして変態のいない町を、清く正しい世界を取り戻さなければならない。
この蹄沢を拠点として、必ずヤツ《《ら》》の野望は阻止してみせる。
アルテマたちの悲しくも虚しい戦いはまだ始まったばかりなのだ。
エンディングナンバー6 アニオタ
BAD END
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