森と共にあらんことを
サバイバルゲームが始まって、森の中を姿勢を低くして進む。森の中を人の形状をした何かが歩いてくるのはなかなかの光景である。人ではない。だが、動物でもない。
顔もなく、尻尾もない。あるのは違和感である。
敵の発砲音が聞こえてからは膝をついてハイハイをするように前進した。
敵の足音が聞こえてからは這うように移動した。
普通ならば、何の虫がいるか分からない森の中で這い回るなんて嫌で仕方がないのだが、不思議と、この鎧を身に付けている時には何のためらいもなくやることが出来た。
一歩進むために地面に埋まった石を頼りに体を引きずるのだが、ここで不思議なことが起きた。
視線を感じたのである。
急いで目だけを動かして辺りを確認すると、その正体は自分の右斜め前に存在した生き物だ。
真っ黒なガラス玉のような目をした野ウサギであった。手のひらに乗ってしまいそうなその小さな生き物は私の姿をじっと見て、しかし逃げなかった。
警戒心の強い野生のウサギがそうなったのである。そればかりか、前進をやめた私の上に飛び乗って背中から足へと走っていった。
山の一部として認識された結果であった。
フィールド中央には砂利をひかれた、軽自動車が一台通れるくらいの道が走っていて、この先は敵のテリトリーとなる。
ここまで前進したが、ここから先は草が少ない。当然越えるには細心の注意が必要となる。
装甲がない部分を撃たれると痛いので、わずかなためらいの後、道へと手を伸ばすと、私とは別に、目の前からガサガサと音がした。見れば、緑色のゴーグルをした人が、キョロキョロと回りを見ながらこちらに向かって歩いてくるではないか。
私はエアーコッキングのドノーマル、コルトガバメントを取り出してゆっくり頭に狙いを付けた。
相手は全くこちらに気がつかない。そのまま来たので遠慮しながら胸の辺りを撃った。
このエアコキのハンドガンがいかに糞かと言うと、機関銃を持った相手に対して、およそ一発しかチャンスのないような銃であった。日本軍とアメリカ軍、インディアンとアメリカ人。やったことがある人ならばきっと伝わると思うが、本来ならば、ゲームにならない程度の性能差がそこにはあった。
だが、撃たれた本人はキョロキョロとまだ見回していて、私の位置が分からない。
立っている私は竹に紛れた。座っている私はススキに。伏せている私は苔むした岩になったのだ。人をやめるのがこんなにも楽しいとは思いもしなかった。
たった半日で、カマキリの動きから、風に靡く草木に似せて辺りを見渡す術を得た。




