金縛り
面を右の枕元に置いて寝てみた。
横を向いて寝るとき、誰なんだろうって思うんです。何なんだろう、ではなくて、誰なんだろうって。
鉄を人の顔の形に裏側から叩いて形作っている物ですから、左右でわずかに形が違うんです。押し出されてよった皺も、人間のものみたいになっていて、でも首から下を見ると何もないんです。
これ、一緒に寝て大丈夫かなって思ったりしました。
結果としては、毎晩のように見ていた夢はパタリと止まりました。
私は必死に見なくなった理由を考え、できうる限りの行動をとりました。何か間違えたことをしたから、結果が違うのだと考えたのです。そして、原点に立ち返って鎧に面を戻しました。
最初の夢を見始めた時と同じ場所へと戻したのです。
考えてみれば夢に出てきた女性は、目が見えないのです。それは面には目がないからで、単体の面では、手足がなくなるものですから、(防具としての面には鼻頭から首にかけてしかありません)会えなくなったのではないかと思いました。
その日の晩は10月だというのにムシムシとする夜でした。まるで全力疾走をした後のように体が火照っていました。湿度が異様に高かったように思います。
虫も寝静まった真夜中に、フッと目が覚めました。
暗い部屋の天井が見える。何かが変だ。立ち上がろうとすると、全く手足が動きませんでした。
頭は完全に起きているのに、手足が全く言うことを聞かないのです。指先ひとつ動かせません。これを金縛りと言うのでしょう。
私には身に覚えがありました。
鎧です。昼間に面を戻した鎧です。
ちょうど、寝床からは鎧が見える位置に鎮座していましたから、そっと覗くようにしてそちらを見てみると
「あれ?」
そこにあるはずの25キロの鉄の鎧の姿がない。いや、暗がりで見えないのだと、自分に言い聞かせます。
その時でした。誰も歩いていないのに、床板がミシリと音を立て、なにかが、布団の上に乗るような感じがしました。
ちょうど猫が暖を求めて布団に上がり込むような感じです。
怖い。と思いました。そのまま目を閉じているといつのまにか眠っていたらしく、朝を迎えました。
手足も動きます。氷のように冷たく、節々が痛むことを除けば、それはいつも通りです。鎧も元の位置にありました。
もしかしたら見たもの全て夢だったのかもしれません。
怖いな、と思いながらも、今日も寝ます。今日は帰ったらお風呂に入って直ぐに床につく予定です。怖いもの見たさ、と言うのが無いといえば嘘になります。しかし、次こそは会話をしてみたいものです。