本物
今、ヤフオク!におそらく本物の西洋甲冑が2つある。
一つは全身に美しい彫金が施されたものであり、現代ではまずお目にかかれない代物である。なぜならそれはあまりにも手間がかかりすぎてやってくれる職人がいないからである。
そしてもう一つは本当に欲しい、おそらく、中世のイタリア製。こちらは煌びやかな装飾こそないが、間接の作りが独特で、長く掘った溝に間接に作られた出っ張りが入っており、腕が回るように工夫されている。その上、腕を包むときにヒンジを閉じなければならないのだが、その留め具も独特の爪を引っ掻ける形状をしている。
ここが実物であろうと判断した決めてであった。
こんなめんどくさい設計を現代の人はしない。
なぜなら爪を引っ掻ける構造であると、潰しが効かず、万が一使用者とサイズが合わなかった際には全部一から作り直しとなる箇所だからだ。
だから普通ここは皮ベルトで締め上げる構造にする。私もそうした。なぜここが爪で引っ掻ける構造かと言えば、当時の鎧技師の工夫としか考えられなかった。その甲冑は意匠がほぼ完成していて、最終形状に近い。つまりそれは戦場に銃が登場した時代ということだった。
騎士の鎧が時代遅れとなる時代。弾が入り込まないように細心の注意を払ったのだ。
史実ではその後、様々な形に派生して今日に至るわけであるが、今まで多岐にわたる人々に受け継がれてきたそれが二束三文で売り飛ばされている状況がそこにあった。
出品者は価値が理解できていない。なぜならその時代の甲冑は実践用の代物で、当時の技師の名すら打たれていないからだ。要するに、証明することのできない歴史がそこにはあり、価値を明らかに下げていた。
どちらも欲しい、が、私には問題があった。
体がでかすぎるのであった。どうみても入らない……。
連日朝晩ジムに行っているお陰でよりごつく、分厚くなっていた。足は馬のようになっていてとてもあのすらりとした鎧の足には入らなかった。
うむ。おしい。誰か買うだろうが大事にして欲しい。だが前述の通り、甲冑はシンデレラのガラスの靴。入らないのが当たり前でちょっと大きめを買うか、自分の運を信じるかしかないのが現状。それはつまりほとんど入らないという意味なので、やはり、フルオーダーメイドに落ち着くのだが、一番腕の立つ技能者がいる国はウクライナであり、今戦争中であるから、本物を手に入れるのは実に難しくなった。
それからそうそう、面白い話をすると、第二次世界大戦より前に作られた鎧には放射能を含まないので鉄というだけで価値がある。またそれだけで少なくとも80以上年前に作られた証明になるので参考にして欲しい。あの時代、まだ空気中に放射能を持った粒子は飛んでいなかったのだ。
その鉄はとても貴重で、ガイガーカウンターなど自身が放射線を発してはいけない装置に使われる。よって盗まれることもあるほどなのだ。まだ彼らは我々に贈り物を残している。まさか、歴史の異物を潰して鉄にしようなんて者はいないと思うが、次の時代に託すのもまた、我々の使命なのかもしれない。




