戦士との遭遇
私の心を撃ち抜いたのは「え、カッコよ」という言葉だった。
コンビニで買った握り飯とパンを入れた袋を持って歩く百メートル。
身長181cmの私は認識され始めていた。
目の前から歩いてきた女性は、友達と遊びに来たようで、全く私を視界に入れなかった。しかし、すれ違った後にぼそりと呟いたのが「えっカッコよ」である。
本当に私に言ったのか?と思ったが、場所はオフィス街のすぐ近くである。彼女らがコンクリートと鉄筋でできた建物をカッコいいと言う酔狂な人でなければ、それは私に向かって言ったのだと直感する。
相手に聞かせるような言い方ではなかった。たまたま言葉が漏れてしまったような言い方である。だからこそ現実味が強い。
前から見るのは怖いから、後ろから見て言ったとすれば非常に可愛らしいではないか。
かつての外国人宣教家が『日本人は恥ずかしがりや』と書いたように、実に清楚で好感が持てる。日本人のこういうところを感じたのは今日がはじめてだったような気がした。
それと比べるわけではないが、歩道で遭遇したフィリピン人っぽい観光客は、遥か彼方からスマートフォンを顔の前に掲げてやって来た。
あれで前が見えるのだろうか。そう思って道を譲ったが、観光客は避けた私に合わせてスマートフォンを振ってくる。
どうやら動画を撮っているらしい。
お互い認識したためか、フィリピン人旅行客は臨戦態勢となった。
平凡な現代日本の昼下がりに空手チョップを仕掛けてくるフィリピン人旅行客と、かじっただけのカポエイラスタイルのステップを踏むエセ戦国武将という構図がそこにはでき、言葉は通じなかったがどこからともなく漏れだした笑い声が暫く響いた。
このコロナ渦、わざわざ日本に来る外国人旅行客が見たいのは、日本の巨大な都市ではなく、侍であり、武士なのだった。それはハラキリであり、富士山だった。
それが僅かにも満たされた彼らは、片言の日本語で、知っている限りの誉め言葉を並べた。彼らは本当に嬉しそうだった。
待ってちょっとヤバイ!!ドクロの形の面頬手に入ったんですけどカッコよすぎる!!!私はこいつで出る!!なんか元からこうだった気もする!いや、きっとそうに違いない!誰もが最後はその姿に行き着くというならば、最後に見る姿もそれであって不思議ではない。むしろお迎えはその姿であるべき。だから私はドクロで行く。