フランクな英語わかりません
今回、無性に話しかけてくる人がいた。
更衣室で着替えているときに話しかけてくるものだからビックリした。
その人はずっとニコニコ笑顔である。まるで古くからの友人のように話しかけてくるが、全く知らない人だった。
話しているうちに、どうやら中国人らしいということが分かった。日本語がペラペラでアジア人の顔つきであるから、全く違和感がなかった。言われるまで気がつかなかったくらいだ。
やっぱり、中国人も日本人もないんじゃないかなぁと思った。なにしろ相手も大変なヲタクであり、名の知れたゲームの話を永遠してくるのだった。(恐らく、そのゲームのなかに出てくるキャラクターに鎧を着た人が出てくるのだ)
やはり、と言うべきか、日本にまで来て高いカメラをもってイベントにまで来る人は違うなと思った。私の鎧はいかついので、スタッフさんまで言葉を飲み込んでしまう感じなのに。
会場に立つと、今回はカメラマンが少なく、ほとんどのコスプレイヤーさんが自分撮りで写真を撮るなどしている。
近くを流れる川はエメラルドグリーンで、川底まで敷き詰められたコンクリートの美しさが際立っていた。
人間の力というものの現れだろう。川の流れを変え、あまつさえそれをコンクリートの下に潰してしまったのだ。
さぞ、その恨みも深かろう。川には神様がいる。いや、かつてはいたというべきだろうか。その川には沢山の生き物が生き、育まれていたはずだったが、今では魚一ぴき、虫の甲殻さえ、浮いていないのだった。
まるで、ブリーチされたYシャツみたいに清潔で匂いもしない、生きてもいない川。これが人の望む姿なのだろうか、とふと、鎧の引っ張られて考える。
すると、こちらをチラチラと見る二人組がいた。だが、私がそちらを見ると、さっと目を離してどこか遠くを見ている。カメラを持った褐色の手は震えていて、どこか一歩踏み出したくても踏み出せないような雰囲気を感じた。
2回も3回も目の前を行ったり来たりするので、なんだろう、なにか文句でもあるのだろうか、と思った。
鏡が怖いという人もいるのだそうだ。そういう本能的な恐怖にさらしてしまったとしたら申し訳ないことをしたなと思っていると、片言の日本語が消え入りそうな音量で聞こえてきた。
「シャシンイイデスカ」
「あ、ハイ」
全然私は構わないのだけれど、大抵の人は私の鎧姿の写真を録ろうとはしないのだった。だって怖いもん。
なにか、英語でフランクに写真オーケーと言えれば良いのだが、そこまで私は勇気がないので、今後はスケッチブックに写真オーケーの意思表示をしようかと思う。しかし、英語はなんて書けばいいんだ?
写真撮影にはたっぷり1時間拘束されて、何種類もポーズをとることとなった。君らどんだけ鎧好きなんや。




