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アババババ

 会場には警備員もいた。

 黒い服に防刃ベスト、腰には無線機とゴテゴテした装飾品をあしらった彼らの姿は、まるで海外の警察のようだった。その仕事は、危ない人間を排除し、イベントと参加者を護ることだ。


 それなのに、甲冑を着た私を見た彼らは、一様に目をそらして、体まで回転させて背を向けてしまう。


 誰だって仕方なく仕事で警備員をしているのだった。

 まさか、実戦を想定した訓練を積んだ人など見たことがないし、本物の甲冑を見たのも初めての事だった。身長181cm。フルメタル、メイス付き、目付きは犯罪者みたいに悪いと来ている。


 私は彼らが恐れたのを見て、内心、『死ぬのは怖いだろぉう?』と大海賊スペクタクル映画の悪役よろしく重い一歩を歩んだのである。騎士は、これがあったから重い甲冑を着ていたのかもしれないな。戦わないで勝つに越したことはないのだ。


 警備員の心境はといえば、(怖い。命捨てたくない。……神様)という感じ。


 彼らはその仕事内容からすれば、危ないやつを無視するという外れた行為を行った。しかし、生き物的に非常に的確であった。固まっていたのだ。所謂死んだふりとも言う。


 そのまま会場入りである。


 コスプレ会場は大体いつもコスプレする人と写真を撮る人の二種類がいる。


 この日、一番大量のカメラに囲まれていたのは女性だった。


 見た瞬間、サキュバスだ!!と心の中の騎士が叫ぶ。早く倒せ!と言ってくる。


 どういうことかというと、見た目が、ほぼ乳首と三角形しか隠していないという有り様で、はっきりと言えば全裸だった。な、なんだあれ。怒られないのか。


 下半身にでっかい蜘蛛がくっついていないか確認しちゃったよ。だってやべーもん。顔がめちゃくちゃ可愛いのね。その格好じゃなくても絶対にモテるだろうに。もう、まんま、ゲームのボスにいそうなのだった。


 第二形体とかあるやつや。体力全部削ってからもう一本出てくるタイプや。


 こえー。


 多分その理由は、オタクたちの熱気と興奮が伝わって脳汁ぶしゃーってなるからなんだろうなきっと。


 ジュリアナトウキョウとかのお立ち台でパンツ丸出しで扇子振ってたのと多分一緒。熱気と性欲にギラついた男の目で女達は輝くのだ。


 一方、あんまり名前の売れていないコスプレイヤーは、その写真撮影の邪魔にならないように端っこによる。私はあまり有名ではないので。顔も自信ない。まあ、せっかく着たんだからと荷物おいて、端っこの方でガントレットつけて、グレートヘルム被って、メイス持ってみなさいよ。



 ヲタク達は好きなものを見ると走ってくるから。

 女性を囲んでいたカメラマンさんの半分近くこっち来ちゃうから。


 こんなの初めて。アババババ。


 私あんまり囲まれることに慣れていない。ゲームでは一人のボスより群れになった雑魚が一番つえーって分かってるからめちゃくちゃ怖い。


 挨拶もそこそこにありとあらゆるカメラで撮られまくる。


 まるで洗濯機の中みたいだ。一人終わって、二人目、もうすでにポーズとるのきついじゃないですか。47キロもあるので。

 やっと終わって、やっと休める!と思ったらもう次です。次次々!!


 アババババ!!!!体力が!!削れる!!!!


 ちょっとビックリさせようと思ってメイスを両手で振り上げるポーズをしたら、待ってましたとばかりに撮影ですもの。動画動画!


「こっち目線ください!!」

「俺が先だよ!割り込むなよ!」


 私がね、本当に騎士だったら君たちやられてるよ。いやもう、息上がっちゃって、ああ、こういうことね、という感じ。なんかもう、自分の中の足りなかったものが甲冑だったんじゃないかなって思った。ほんとは、騎士だったんじゃないかって。


 これ心境的に現実に戻れなくなるんじゃないかと思う。ちょっと怖い。夢の国で夢を見させる方もまた、夢を見る。それはとても良い夢なのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 先輩のお友達が警備員やりましたが、割りに合わないって言っていたらしいです。業務はキチキチなのに、対価が大したことない。あれですよ、下っ端のギルド員。 それだけ撮られていながら、調べても出ない…
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