コンビニは粛々と
コンビニに入った瞬間もやはり緊張した。
入店した私に、出口に向かってきたサラリーマンが立ち止まる。彼は私の姿を足の先から頭のてっぺんまで舐め回すように見て満面の笑みとなった。
彼は日常がブッ壊されるような予感がしたのだと思う。あるいは私がタイムスリップしてきたと思ったのかもしれない。もしかしたら映画の撮影かと思ったのかも。
彼がじーっと見ているので、私はカッコをつけて首を捻りながら五目おにぎりを手に取った。鎧着ている人がこれを指すときは、握り飯と呼んだ方がいいだろう。
いや、しかし、パンに比べて現代の握り飯はパッケージのゴミが出るからなと思って、結局追加でホットドックと菓子パン一個を持ってレジに向かう。
レジでは高校生くらいの女の子が気だるげにレジ打ちのバイトをしていた。しかし、人の目を見ないタイプだったために、最悪の事態は避けられそうだと思った。
実際、彼女が私を認識したのは、レジカウンターに持ってきた握り飯とパンを並べていたときであった。
彼女は私の籠手を見た。籠手は鎧のなかでも特に美しい部位である。手の甲から肩までを覆う防具で、星や家紋を型どった裏打ちがしてある。それらがキラキラと輝き視線を引いた。
彼女の目はゆっくりと腕を伝って上に。
目があっても何も言わなかったが、まさか鎧を着た武士がコンビニに来るとは思わなかったのだろう。レジ打ちで握り飯の勘定を忘れ、あわてて打ち直すなどしていた。しかも、渡したお金をまじまじと観察するなどしていた。古いお金だと思われたのかもしれない。
それから、お店を出て会場に戻ろうとしたときの事。
私は帰るために交差点を渡らねばならなかった。その信号は点滅し、目の前で赤色に変わる。その意味は止まれである。
都会、それも休日のため道路には車通りが多く、信号の変化によって止まった車両から物凄い反響が訪れた。
赤色のスポーツカーに乗ってドライブデートの真っ最中といった感じの女が口をあんぐりと開け、目玉が飛び出そうなほど目を見開いてこっちを見ていた。
信号待ちで横に立ったゴシックロリータファッションの美少女は、自分の真っ黒なフリフリスカート姿と、私の25キロもの勝負服をしきりに見比べている。
恐らく通じるものがあったのだろう。
さらに背中側では、男女のカップルが「え!?本物!?」とはしゃぎ、私の足元に注目しているのが分かった。鎧の足、特に太股には片側40枚、合わせて80枚もの鉄板が守っている。それが珍しいようだった。