野蛮で心優しき人々
人は服装にひっぱられる。
制服やスーツを着るとき、身が引き締まる思いだと言う言葉があるが、甲冑もまた、そうだった。その服は人を変えてしまう。
前日から気合いを入れて視聴した死にゲーの影響か、すれ違う人が全て敵に見えるのである。
ここはもといた場所とは全く違う世界のようだった。行き交う人々は、色とりどりの服を身に付け、皆会話もせず黙々と行進を続けている。私がいる場所は、どこかの城の回廊のような場所であったが、どこにも衛兵の姿が見えない。天井にはおかしな形の棒が取り付けられ、怪しい白い光を放っていた。
人々は、体に締まりがないものと、ゲッソリと痩せたものの二種類しかいなかった。そして皆、奇妙なガラス板を指で撫でている。
「ここはどこだ?」
私は自分自身に問いかけた。道に迷った際に大切なのは、今の状況を正確につかむことだ。幸いにも右手にはメイスを、左手にはグレートヘルムを持っていた。襲ってこられても戦える。
回廊を抜け、大広間へと向かう。つい先程、騎士の姿をした者を見かけたのだった。それがどういうわけか、女性らしい。ジャンヌダルク、と言うわけではあるまいな、と私は勘ぐった。
しかしその女騎士は、人混みに飲まれるようにしてどこかに消えてしまった。
私の回りを表情を失った人々が行き交い、時おり舐めるような視線を向けてくる。一秒でも早くこの場を去って元の世界に戻りたくなった。これだけ多くの人を見たのは全くはじめてだったのである。
幸いにも休憩所を見つけることができた。そこでは東洋に聞く、武士や蛮族達が武器を並べて話をしているではないか。私はギョッ、としてメイスを強く握った。
相手も刀(というのだろう?)を思わず手に取ったようだった。
私には騎士団の掟がある。売られた喧嘩は、損得を度外視して全て受けると言うものだ。だが、相手があまりにも小柄で心配になった。今にも死にそうなのである。みれば、胴体の防具がなく、腹をむき出しにしている。
やはり、蛮族と言うことだな。言葉も通じぬだろう、と思い、懐から金貨一枚を取り出して投げてやった。
「落としましたよ」と、蛮族は金貨を拾い上げて私の方まで持ってきたのだった。驚きだった。目を見開いてしまった。
金貨をまさか戻す者があろうとは。痩せ我慢をしているという風でもない。ただ、とんでもないお人好しなのだ、ということである。




