極東の屋台
え、てかみんな、好きな武器ある?
私はメイスっていう武器が好きなんだけれど、コスプレ会場に本物を持って行ってしまうとドン引きされて警察呼ばれるから、今日、百均で材料買って来てこさえた。
女で言う所の化粧筆よ。私、熊の毛で出来た筆使ってるんだよね~みたいな感じで周りを威圧していけ。
なんで私がメイスを好きかというと、聖職者の武器だからなんですね。
何とビックリなことに、剣で刺しても死なない騎士が、これで頭をどつかれると脳みそが揺れて失神するんですね。ヤバいですね。ちなみに、現在世界にあるどの防具を使ってもこの攻撃を受けきることはできません。脳みそを痛め、首をへし折る一撃です。数百年以上人間は人間同士で殺し合いをしていますが、武器は変わっても人間の強度が変わっていませんので、ぶっちゃけ防具が鉄だろうがチタンだろうが皆死ぬのです。
どっちかって言うと、ドラゴンとか倒したいです。
南方に行くとオオトカゲの住む島があるとか、巨大な青カニや蜘蛛のようなサルがいるジャングルがあるのだとか。
そういう所行きたいっすね。それと日本の城に甲冑を着て攻め入りたい。
まあ、自分が二回目の西洋甲冑着用で挑戦したのはコンビニだったわけですが、それでも私からすれば十分に冒険だった。
まず、身長181cm。いかつい西洋甲冑を身に纏ってギラギラ光っているやつが、自動扉の前で立っているのを思い浮かべて欲しい。
私は体が大きいが、赤外線に反応されないことがよくある方だった。
今日はどうやらその体質のせいではなく、鏡のように磨かれた鎧が、自動ドアの赤外線を用いた検出センサを乱反射させたようだった。
このセンサは、入ろうとする客に目に見えない光を当てて、その反射で判断して開閉を切り替えているのだが、あまりにも甲冑が反射しすぎるので誤動作を起こしていた。
ここに、自動ドアの前に棒立ちで立つ騎士の姿が生まれたわけであるが、店内の客や店員からすればそれは恐怖でしかなかっただろうね。
まるで自動ドアを知らない世界から来た人だった。
店に入る前から道ができたのだった。
お菓子を選んでいたサラリーマン風の男は商品棚に背中をくっつけて直立不動であるし、店員さんは商品棚に陳列していたパンを落とす。
あまりにも自動ドアが開かないので手で押し開いて入店した私に、大勢お客がいた店内は静まり返っていた。
まるで悪霊の出る館に入ったかのようだった。
そこにいた客は皆、私を見て蝋人形のように体を硬くする。
今日は西洋の格好をしているので、パンを持ちレジに並ぶ私を見て、やっと皆が動き出す。
幸いにもそれほど待ち時間もなく会計へと進めた。
レジは若い女性が受け持っていた。
まだ高校生くらいの若い人だ。私を見るなり、上から下まで見て、また顔を見て、目ばかりを見てくるのだった。
一応、入店ということもあって防犯の観点からヘルムは脱いでいる。汗で流れるので化粧などしていないのに、じっと見られて焦る。
私は対人があまり得意ではない。思わず身じろぐと頭から首までを覆う鎖帷子がジャラジャラと音を立てた。
腰に下げた革袋から銀貨三枚(100えん三枚、というのだろう?)を青空色をした奇妙な皿に乗せ、押し出す。
女はまだ私の目を見ていて、会計が進まなかった。
軽く咳払いをするとやっとつり銭が用意された。昨今、流行り病のために随分冷たいつり銭の渡し方が行われているのは、皆も知っての通りだろうと思うが、今日は違った。
女は私のガントレットに包まれた手を柔らかな両手で包むと、そっとつり銭を手渡したのだった。
極東日本という国はかくも可愛らしい人の住むところなり。
やはり財布は新調しておいてよかった。




