素敵な魔法をかけられて
それは、間違いなく我が人生における最大の快挙だった。取り柄と言えば、設計だけだった私が、美貌とコミュニケーション能力を併せ持った列強足る女性有名レイヤーを差し置いて、まさか、モデル用のカメラの前に立つなんて、誰が想像できただろうか。
設計しかできない私が、騎士として、皆と同じように本物になったのである。
この高揚を理解するためには、まず、コスプレと言う行為がどう言うことか分からねばならない。
会場に登録した一般人はコスプレイヤーになる。そこでは、わずかばかりのルールを理解する頭と、化粧品と、衣装さえあれば、誰だって何にだってなれる世界だった。既存の世界を忘れ、ただ、こんこんとキャラクターに成りきる行為は、ある種、楽天的な現実逃避とも言える物だった。あの浮かれたような楽しさこそが、誰もが人生で追い求めて手に入らない物。確かにそこには、自分の思い描いたヒーローとなれる空間があり、olはお姫様となり、少年は名探偵になっていた。カメラを向けられ、その写真の中に、自分の思い描いた以上の美しい世界が広がっているのだ。
ちょっと待っていてください、と彼が用意し始めたのは黒い傘だった。その中に布を張ってどうやら照明器具として使うらしい。
プロやんか。なぁ。
その他にもなん十万もしそうな光センサーとストロボ、ルーペみたいに巨大なレンズをもったカメラを向けられ準備が完了する。
今まで一眼レフまで向けられたことはあったが、ここまでの装備は初めてだった。私はもうガチガチに緊張してしまった。こういう装備は可愛らしい女性か、エッチな服を着たレイヤーさんを囲むものだと思っていたのだった。
何かの冗談だと思った。私はガチガチの甲冑姿だ。
それは、大変なことだった。
ピカッ!っと焚かれたストロボに、撮られた写真は正に、本物そのものだった。
まるで映画のワンシーンを切り取ったような写真は、私が今まで撮られたどんな写真よりも綺麗で、本物だった。
753の写真でもあんなに良いものを撮ってもらったことはない。彼はプロだった。本物を作るプロのカメラマン。それは魔法だった。
そこに騎士は確かにいたのである。
彼の録ったカメラの中に、数十年もの間、戦いに身を投じ、生き残ってきた輝かしい騎士の姿があった。
これらはすべて、カメラマンとして参加した彼の魔法だった。
自分の心の中で本物になる以外に、誰かに魔法をかけてもらうこともできたのだ。知らなかった。こういう世界なんだ。
くそう。カワイイカワイイレイヤーさんは毎回これを感じているのか。
まぐれで撮ってもらったのだとしても、私はこの日を忘れることはないだろう。素敵な思い出になった。悔しいことにまだレベルが足りなくて、下半身はついてなかったのだけれど、それでも!!彼は声をかけてくれたのだった。魔法をかけてくれたのだった。嬉しい。本当に嬉しい。
次は年末、何がなんでも下半身をつけるぞ!! 武器も持ってきたいな!!レベルあげっぞ!みんな振り落とされないように付いてきな!




