とんぼ
今回、縁あって台場という地域で着ることができた。台場は、東京湾に面していて沢山の外国人観光客がやって来る場所だ。
だから私が行った商業施設は、日本の文化を前面に押し出したお店が多くあった。日本に来てまで外国の製品を買う旅行客は少ないだろう。
その店は、店の前にずらりと小物を置いた店舗で、小さなダルマや、手鏡、魔よけの塩など外国人向けのお土産屋さんだった。
そこで私は見つけたのである!!
この嬉しさを説明する為に、先ず私がどんなものを兜に乗せようと考えていたか説明しなくてはいけない。
兜は戦国時代、武将それぞれが自分の気に入った物を頭に乗せていた。それは龍だったり、愛だったり、剣だったりするのだが、鎧を持っている私も、自分になじみ深い模様を付けようと思っていた。
その模様こそ、十字に交わった線の中心に点を描く物。現在使用している設計用ソフトのカーソールであるわけだが、その模様がお店にあったのだ。
その棚は箸置きの棚だった。様々な和柄が描かれた綺麗な箸置きが並んでいる。その中で一際目を引いたのが、このトンボだった。背筋がゾクゾクとした。
トンボという和柄は、十字に点のマーク、正に設計で使うカーソールと同じ物だったのである。これがどうしてトンボかというと、点の部分が頭、線の部分が体であり、これはトンボの姿を簡略化した物で、四匹のトンボが頭を突き合わせて一つの十字となっているのだった。
これに気がついいた時、私は鳥肌が立った!!
戦国時代、トンボと言えば誰もが知っている虫だ。その特徴は、バックをしない事。後ろ向きには飛ばず、必ず前に向かってのみ飛ぶ。つまり、出世しかせず、後戻りをしない。前にしか進まないトンボは縁起物だったのだ。
それが全くの偶然、設計用ソフトのカーソールと同じ形。これが運命でなくてなんというのか。私は設計ができたために自分に合った鎧を手に入れていた。つまり、それを頭につけろと言うことではないだろうか!
箸置きは摺りガラスに金箔押しという実にきらびやかな物であった。もう、堪らない。ぜひ持って帰りたい、ということで、私はお店の暖簾をくぐった。
現在私は鎧を身に着けている。つまりそれは兜の上に巨大な飾りを付けているという訳で、暖簾に引っかかってはいけないと頭を下げての入店である。
そこには店主がいた。
日本の物を所狭し、壁一面に陳列した店の店主である。鎧を知らない訳がない。
彼は甚平姿で、頭にバンダナをまき、固まっていた。
店に入り、にゅーっ、と姿勢を正した私を足の先から頭のてっぺんまで目を見開いて確認した。目が合う。お互いに動かない。
店主もまさか、鎧姿の武士が入って来るとは思わなかったのだろう。私が会計を頼むと言っても、口あんぐり開けたまま動かなかった。特に彼は私の兜についた金色に光る飾りがお気に召したようで、それを何度も見てくるのだった。
それが本物っぽいから。なぜかと言えば、これまで何度も着ているうちに、色がくすみ、傷だらけとなった物を私は隅々まで磨いていたからだった。その結果、金色には深みが出て、奥行きが出る。私はその奥行こそが本物たるゆえんであると思う。鎧は高級車じゃないんだ。傷がある方が当たり前。だからその傷をかっこよく見せるのだ。
ただ一点失敗したのは、会計時にお財布を出した事だった。金を払うのは良いのだが、何分、なめし皮の皮財布である。店主がちらちらと見てくる。戦国時代ってどうやってお金を持っていたんだ?と言わんばかりである。その時代に皮財布は無かっただろうなぁ。悔しい。口惜しい。
買わねば。こういう小道具こそ大事なのだった。誰か武士の使っていそうな良い財布を知っていたら教えて欲しいくらいだ。
でも本当にいい店主で、言ってないのにプレゼント用の綺麗なラッピングをサービスで付けてくれた。
私はトンボと縁がある。そんな素敵なことを知れたいい出会いだった。
店主さん、びっくりさせてごめん。
それから、今画像検索したのだけれど、この『とんぼ』柄、全然ヒットしない。やっぱり買っといて正解だった!!!箸置きとして使うのがもったいない感じ。でも、そうなるために生まれてきたのだから、そう使ってやるのが正しいのだろうな。いい出会いだ。出合に感謝。




