大人が子供に戻るとき
人生における大事なことを一個教えておくと、見た目なんて気にすること無い。だって鎧着た人間よりおかしい人いる? いないよね。
私を目にした消防士の人は大興奮していた。
芝生から外の屋台が一列に並んだところに向かうため、消防士さん達の後を歩いていた時に見つけられたのだけれど、50~60歳くらいの男の人ばかり。私、この年齢の人が一番苦手だった。その年代は、まだヲタクはキモいと考えて、犯罪者予備軍と考えていた真っ盛りの人たちなのだった。昔は今ほどアニメが好きなんて大っぴらに言えない時代があったんだ。
その年代の人が鎧武者のコスプレをやっている人など見ては卒倒すると思ったのだが、彼ら消防士は違った。
「え!!??」
一人が止まると、周りの十人が一斉に立ち止まって私を見た! 全員同じ制服を着ている!怖い!!なんだこの陽キャの集まりみたいな集団は!じろじろ目が刺さる!!うう怖い!!
何を言われるだろうかと思った。チクチクした棘のある言葉を予測した。だが、実際に聞こえた来たのは全く違う言葉だった。
「すげぇ!!!!」
「武士だ」
「うわ!スゲー!写真いいですか?」
随分フランクだな!ええ!?この年代にもこういう人がいるのか。あるいは大田区という地区に住んでいる人間がこうなのか分からないが、物凄くいい人たちなのだった。一緒にスマホの写真に納まると、そこには武士と、まるで子供みたいな笑顔の大人がいた。「ありがとうございます!」なんて言われちゃったりして。というか、大人の皮を被った子供みたいだった。まるっきり笑顔が子供のそれである。まったく作った感じのしない完璧な笑みで凄く楽しそうだった。
思えば、この人たちの子供のころ、テレビゲームあった? というか部屋の中で遊ぶことなんてあった? 初代ファミコンが発売されたのは今から約四十年前。それまで彼らがやっていた遊びといえば、鬼ごっこ、メンコ、そして枝を刀に見立てたチャンバラだった。まさに青春真っ盛り、彼らは少年時代を武士として過ごし、戦国武将だったのである。妄想の中で重い甲冑を、あるいは浪人の格好をしていたのだ。そりゃもう大好きでたまらない世代の心をがっちりと掴んでいた。
ああ、そりゃあ、好きですよね。
「インスタあげてもいいですか!?」
「い、インスタ!? いいですけど……」
「ありがとう!」
露店を出しているのは、50代以上の方が多かった。もうね、ヒーローである。鎧持っている人はあのイベントに行った方がいい!絶対に喜ばれる。子供を連れた親が、子供そっちのけで写真を一緒にとりたがってしまうのだった。子供よりも親世代。その見つめる目線はまるで映画スターを見つけたようだった。手なんか振ったらもう振り返すしてしまう。握手なんてしちゃったりして。
10歳くらいかな。小さな女の子の手を引いて、スカジャン、青色サングラスで明らかにヤンキーみたいなオッサンが鎧に目を輝させていらっしゃった。つま先から頭のてっぺんまで舐めるように見て、にかーっと笑った顔が忘れられぬ。私が着ているのは男達の夢が詰まった鉄の塊なのだ。
この鎧は、大人を子供に戻してしまう魔法がつかえるようだ。




