最初からそうすれば良かった三枚のお札。
昔々、お寺の和尚様が小坊主を呼びつけると、お使いを言い渡しました。
「隣村のお寺から、大事な巻物を借りてきてはくれぬか?」
「わかりました和尚様」
「途中の山には山姥が住まうと聞く。この三枚の札を授けるから助けを借りると良い」
「わかりました和尚様」
「では頼んだぞ」
小坊主は荷物をまとめ、寺を出た辺りで気が付きました。
「巻物出ろ、巻物出ろ」
札の一枚にそう念じると、瞬く間に巻物が現れました。
「和尚様戻りました!」
「ややっ!? 今出たばかりではないか? いかがした」
「巻物を借りてきました」
小坊主が訳を話すと、和尚様は感心したように頷きました。
「ううむ。しかしワシとしては実際に歩いて有象無象の何たるかと感じながら山姥との遭遇を期待しておったのじゃが……」
「そのような物はいりませぬ。戦争は絶対知らない方が良いのです」
そう言って、小坊主は二枚目の札に願いを言い始めました。
「山姥消えろ、山姥消えろ」
遠くの山から、山姥の断末魔が小さく聞こえました。
「これで良いのです」
「では三枚目は巻物を返すときに使うのじゃな?」
「いいえ」
小坊主が意地悪そうに答えました。
「巻物は借りパクします。どうせ誰が借りたのか分からぬのですから」
「ほほう? して、三枚目は如何する」
「お札増えろ、お札増えろ」
たちまち札が空から大量に降ってきました。
これには和尚様も小坊主もびっくら仰天です。
「こりゃあ……寺やってる場合じゃないわい!」
「ええ」
二人は札を山分けして、足早に寺を去りました。
二人のその後の行方は誰も知りませんでした。