3-47.答えの在る処
47.
「いいえ」
ベスは力なく顔を横に振った。
憂いを帯びた茶色の瞳が不安に揺れていた。
その詳しい情報を掴んでさえいれば、このような辱めを受けることも無かったのだと思うと悔しさが増す。
「そうね、社交界に顔を出していないあなたはそれを知ることはなかった。ねぇ? なんで貴族令嬢であるあなたが知らない他領の貴族に関する情報を、平民の、しかも子供が知っているのかしら。その情報は本当に正しいの?」
最初、その言葉はベスの頭で意味を成さなかった。
けれどもじわじわと単語ひとつひとつの意味が繋がっていき、意味成す文章として形成され、もう一度ベスの頭の中で処理がされていく。
そうしてようやくベスは、それに気が付いた。
「ねぇ。あなたが単なる噂を信じるの? 手に入った上辺だけの情報に、自分勝手な妄想を付け加えて然も真実のように語る人は沢山いたでしょう? それに一番苦しんだのは、あなたじゃない。ベス」
「そう、よね」
ベスはエレーナの言葉に頭を殴られたような気がした。
一番最初の婚約者と破談した際には、散々『元々暴力的だったに違いない』とか『学生時代のちょっとした浮気心も許せないような狭量な人間なんだろうね』等々、ベス自身を知らないまま、些細な諍いにも暴力を揮う女だとベスを下に置き、それにより自身を上に持ち上げ、気分よく酔いしれる為だけに勝手な裁定を下す人がたくさんいた。
そうして、それらたくさんのベスを知らない人が話した言葉達は、いつの間にかすべてがまるで本当の事であるかのように一人歩きしていって、どれだけエレーナやユーリ達が否定しようとも覆せない揺るがない事実のように根付いてしまっていた。
その事を、ベスはどれだけ苦く感じていたことだろう。
そんなベス自身が、いくら噂をしていた相手が町の情報通であるとはいえ、子供の言葉を、それも他領の住民でしかない平民達がしていた噂が情報元であろう言葉を頭から信じてしまったのだ。
「わたし……私ったら、なんてことをしたのかしら」
エレーナは立ち上がると、震えるベスの身体に寄り添い、その肩を抱きしめた。
飢饉に苦しむ領地への援助を申し出る為に会いに来たあの時の友人の記憶。十年前のあの日よりずっと艶を持つようになった焦げ茶色の髪に頬を寄せた。
「あなたには、そのウィズバート様と女家庭教師に関する嘘が本当なのか嘘なのかどうか、真実がどんなものなのか、正しく知る必要があるわ。そうしてその術は、いつだって貴方の目の前にある。なのに、なぜ、関係者でもない赤の他人が勝手に流している噂を信じたままでいるの?」
エレーナの言葉に、ベスは何度もちいさく頷いていた。
自分の愚かさに止まっていた涙がふたたび溢れ出そうだった。
「あぁ。あぁ、私はなんて愚かだったのかしら」
凝り固まった自分の頭が恥ずかしかった。
自分がされて嫌だったことを自分でしてしまったのだとようやく理解して、ベスは激しく後悔した。
「勿論、私とそうしてユーリ様は、あなたより正確な……多分ほぼ間違っていないであろう情報を持っているわ。それを教えるのは簡単よ。けれども、これはあなた自身の結婚、未来についての真実よ。なら、自分の手で、もっとも正確なものを手に入れるべきだと思うのよ」
少し困った様子のエレーナを、ベスは決意を籠めて見上げた。
「えぇ。えぇ、そうね。自分で答えは手に入れるべきよね」
そうだ。ベスのすぐ近くにいる真実を知る相手に訊きに行けばいいだけだ。




