3-46.告白
46.
泣いて泣いて。泣きながら話したせいもあるのだろうが、あちらこちらへと飛んで取っ散らかったベスの説明を、けれどもエレーナは辛抱強く耳を傾き続けた。
父の難破事故、偽大叔父による詐欺未遂により、インテバン男爵家の邸が壊され住み続けるのが難しくなってしまったこと、その時、バード医師の厚意によりこの邸を借りられるようになったこと。
「だからね、この、わたしの婚約は最初、便宜上のものでしかなくって……でも、ユーリ様の申し出を母が勝手に受けようとしたことで、バードのプライドを傷つけてしまったから……それで、それだけの為の、結婚なのよ」
「なんてことなの。私がユーリ様からお聞きした話と全然……いいえ、最初だけは一緒ね」
おでこに手を当ててすっかり参った様子のエレーナが嘆息する。
「……ユーリ様には申し訳ないけれど、でも、あの方を勘違いさせることができたなら、それは幸いだわ。その為だけに、バードは他に好きな相手がいるのに、結婚する羽目にまでなったんだもの。きっと本望よ」
ベスは苦く笑ってそう呟く。それはまるでわざと自分を傷つけるような告白だった。
だが、もうこれ以上この秘密をベスひとりの胸に抱えているのは限界だったのだ。
誰かに打ち明けてしまいたかった。そうしてそれは、ベスが考えていた以上の解放感と、そうしてベスの自尊心を叩き潰すだけの威力を持っていた。
惨めだった。
「ちょっとまって。それはどういうことなの?」
だから、血相を変えたエレーナに問われるままに、ケイトリン夫人から言われた『ずぅっと好きで好きで片思いを抉らせていた相手がいたのだ 』という言葉も、そのバードが未練たっぷりでいる自分との婚約を断った令嬢を連れてきて、ベスの女家庭教師を務めさせていたことも、なにもかもを白状してしまった。
「ユーリ様からどう説明を受けていたかは分からないけれど。でも、これがこの結婚の真実なのよ。婚約者の勉強したいという気持ちすら、彼にとって恋する相手と顔を合わせる為の手段にできるのよ。私は彼にとって、その程度の、存在なの」
ベスはもう、自分が哂っているのか泣いているのかも分からなくなっていた。
手に握り締めていたハンカチはすでに涙で濡れてぐちゃぐちゃだった。
そのぐちゃぐちゃなハンカチをそっと取り上げられ、代わりに綺麗なハンカチを握らされる。
「えれーな、さま」
「ねぇ、ひとつ……ううん、どこまで私が指摘していいのか悩むのだけれど。どうしようかしら。全部言ってしまうのは、ケイトリン夫人に申し訳ない気がするわね」
後半部分はほぼエレーナ自身への呟きだったようでその小さな声はベスには聞き取れなかった。
だから、もう一度きちんと話をしてくれるのを待とうと、ベスはまっすぐにエレーナへと視線を上げた。
「あのね、ベス。ヴァリアン侯爵令息の婚約が解消になった話についての詳しい情報って、男爵令嬢としてのあなたは持っているかしら?」




