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3-40.幸せのジンクス

40.



「なんだ。そんな素晴らしいドレスがあったんですね!」

「えぇ、とっても素晴らしいドレスよ。私のお祖母様が嫁入りしてくる時に王都で誂えた特注品なの! 私は子供の頃から絶対にこのドレスを着て花嫁さんになるって決めていたほどなのよ」


 ベスはそんなドレスの存在を知らなかったので、とても吃驚して声を失っていた。

 そんなベスに気が付かないまま、シーラとバードの会話は楽し気に続いていく。


「花嫁は、代々引き継いできたものを身に着けるのが一番よね」

「まったくです。さすがは歴史あるインテバン男爵家ですね」

「まぁ。栄えあるヴァリアン侯爵家の方にそういって頂けると嬉しいわ」


 弾む母シーラの声も、安心しきった様子のバードの言葉もすべてがベスに取って疑心を生むものでしかなかった。


 インテバン男爵家には、お金に換えられそうなものは全て売り払ってしまった後であり、ヴィンテージドレスのようなものが残されている筈がないのだ。

 もしそれが残されているならば、母の父への裏切りであるだろう。


 頭の中では母への不信が渦巻いていたけれども、それでも、もうバードからトウモロコシの皮や麦わらで編んだドレスを身につけろと言われないで済むというだけで、ベスは心の底からホッとしていた。


「では、宝飾品については僕の方で誂えたものを花嫁に贈りたいのです。どのようなドレスか、確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「まぁ! 駄目よ。新しく誂えに行く時にデザイン画を見るだけならともかく、挙式前にウェディングドレスを花婿が見たがるなんてよくないわ」


「しかし」


「白い、伝統的なウェディングドレスなの。だから合わせる宝飾品はオーソドックスなデザインならどんなものでも映えるし、どんな色だって似合うでしょうし、派手で奇抜なものだって大丈夫だと思うわ」


 そういえば、とベスはゆっくりと記憶を辿っていった。

 両親の寝室に掛けられていた絵の中に、まっしろいウェディングドレス姿の母と燕尾服を着た父の物があった気がする。


 エンパイヤラインの白いドレスで、胸元に一本だけブルーのパイピングが施されていた。そうして今は売られて手元にない母の瞳の色をした髪飾りをつけたベールを被っていたような記憶がある。


「私は絵でしか見たことはないけれど、伝統的なエンパイヤラインのゆったりとしたドレスだったわ。胸元にブルーのパイピングが入っていたと思う」


「そうよ! 覚えていたのね、ベス。美しいドレスだったでしょう? ブルーは必要なのよ。花嫁には4つの約束が必要だもの」


 幸せな花嫁になる為の、4つの幸せのジンクスがある。

 サムシングオールド。何か古い物を。幸せな花嫁になる為には、先祖からの許しを得て、代々伝わる物を身に着ける。

 サムシングニュー。何か新しい物を。新しい門出を祝い、希望に溢れた未来の象徴として何か新しい物を身に着ける。

 サムシングブルー。何か青い物を。花嫁の貞節と純潔を表す青を身に着ける。

 サムシングボロ―ド。何か借りた物を。幸せな結婚をしている友人から何かを借り受け身に着ける。


 シーラのドレスの青はこのサムシングブルーにあやかっていたのだろう。


「サムシングフォーですね。聞いたことがあります。なるほど、贈り物の参考にさせて貰いましょう」


 バードはひとり納得して鷹揚に約束を口にした。

 その言葉に、ベスよりもずっと、シーラは嬉しそうに目を細めたのだった。





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