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3-37.レースのドレス

37.


「ねぇ。この技術を生かして、ドレスを作れないかな」

「え?」


「キミのウェディングドレスさ!」


 出来上がったばかりの篭を持って、バードが名案だとばかりに提案する。


 にこやかな笑顔だ。いつものどこか斜に構えたような笑い方とは全く違う。

 その瞳に嘘や揶揄など一切見えない。


 ベスはぎゅうっと胸の奥が掴まれたような気がした。

 忘れてしまいたいと何度も思ったけれども、どんなに否定しても消せない想いがそこで声高に主張している。


 けれどもそれを目の前のバードにだけは知られたくなかった。いいや、誰にも気が付かれたくなかった。

 表情を押し隠し、バードの提案について思案しているフリをして、目を伏せる。


 確かに、蓋の方は念入りに巻きつけたのでトウモロコシの皮でできた篭の部分は隠れて見えないし、篭ならばある程度自由に編み上げることはできるだろうとベスも思った。


「でも、トウモロコシの葉は長さがないからあまり大きな物は作れないわ」

「そこは紙とか、麦わらを使ってみるとかさ」


 否定的なベスの後ろ向きな言葉に、バードはあっさりと回答してみせた。

 

 だからベスは言われた通りのものを想像してみたのだが、動く度にがさがさと音がする様子とか、内側の始末が悪くて突き出た麦わらが自分に突き刺さる想像しかできなかった。おもわず身震いする。


「それにたぶん。いいえ、間違いなく着心地は最悪だと思うわ。それに……それに、麦わらで出来たB級品レースのウェディングドレスを着るなんて、それこそ貴族としてどうなのって思っちゃうわ」


 バードが手にしているトウモロコシの皮で作った籠にそっくりのドレスを着るなどどう考えても嫌だった。自分が後ろ指を差されて嗤われる様しか思い浮かばない。

 ベスは、バードを諦めさせるための言葉を懸命に探して、うんざりした表情を作ってみせた。


 きらきらした瞳で篭を見つめ、手にした篭をかえすがえす検分するバードから、無理にでも視線を外す方法が他に浮かばなかっただけかもしれない。

 それを自覚すること自体が、ベスは嫌だった。


「別に、ウェディングドレスの予算は十分あるのだからB級品のレースとトウモロコシの皮を使う必要はないさ。網み込んで美しく映えるものを手に入れればいい」


 だから、さらっと解決策を提示するバードが恨めしい。


「そんな都合よく丁度いいレースなんて手に入ると思えないんだけど。ちいさな篭とは訳が違うのよ。前身頃と後ろ身頃でレースの種類が違っていたり、色味がズレているドレスなんてみっともないんじゃないかしら」


「そこはデザイン次第だろうさ。君がいま着ているドレスだって、一色ではないだろう? 襟に使っているレースと裾のレースは違うし、袖口に使ってある物だって全部幅が違うじゃないか」


 今着ているドレスに使われているすべてのレースはモチーフが一緒だ。素材も一緒なので統一感がある。

 そこまでは男性には分からないものなのだろうと、ベスはほうっと諦めの溜息を吐いた。


「どちらにしろ、全身レースでふわふわのモコモコのウェディングドレスなんて、私の様な年齢には似合わないわ」


 結局、そこなのだ。

 言葉にしたくなかった屈辱的な理由を、感情を乗せないようにして告げる。


 似合いもしないのに全身レースを身に纏い、動く度にカサカサと音の出る新婦。

 なんて滑稽なのだろう!


 そういったふわふわのドレスが似合うのは十代か精々が二十代まで。人によっては三十に入ってからでも似合うかもしれない。

 そう、ほっそりとしながらも溌溂としていて、ゆるやかなカーブを描く金色の髪の持ち主で、たぶん誰よりも聡明で、チャーミングな笑顔の女性でなくては。





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